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公開日:2010年8月5日

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平成22年8月5日 答申第475号(香川県情報公開審査会答申)

平成22年8月5日(答申第475号)

答申

第1 香川県情報公開審査会(以下「審査会」という。)の結論

香川県教育委員会(以下「実施機関」という。)が一部公開決定(以下「本件処分」という。)により非公開とした部分のうち、小学校調査及び4月21日に実施した中学校調査の実施概況における坂出市教育委員会全体の平均正答数及び平均正答率については公開すべきである。

第2 異議申立てに至る経過

1 行政文書の公開請求

異議申立人は、平成21年10月6日付けで、香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号。以下「条例」という。)第5条の規定により、実施機関に対し、「文部省全国学力調査 学校毎の点数表、学科毎 最新のもの」という内容の行政文書の請求を行った。

2 実施機関の決定

実施機関は、公開請求のあった行政文書として、「平成21年度全国学力・学習状況調査実施概況(香川県) 小学校調査・中学校調査」(以下「本件行政文書」という。)を特定し、「教育委員会・学校別 平均正答数及び平均正答率」が条例第7条第1号及び第4号に該当するとして本件処分を行い、平成21年10月19日付けで異議申立人に通知した。

3 異議申立て

異議申立人は、本件処分を不服として、平成21年11月5日付けで、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定により実施機関に対して異議申立てを行った。

第3 異議申立ての内容

1 異議申立ての趣旨

「本件処分を取り消すとの決定を求める」というものである。

2 異議申立ての理由

異議申立書において主張している理由は、おおむね次のとおりである。

  • (1)理由説明が一般性・抽象性に逃亡しつつ、詭弁に堕しているので、具体的詳細な説明を要求する。
  • (2)生徒数が少ないとは具体的にどの学級で何人であり、又一般的に何人以下(学年で)を指しているのか。個人識別と云う限り一人であるべきで、それならその部分のみ非公開とするべきである。また「個人の権利利益を害するおそれ」が一人(学年)のことをいっているのであれば、単なる可能性(おそれ)ではなく、事実上の被害と書くべきでないのか。
  • (3)「序列化や過度の競争が生じるおそれ」と云うが、具体的にのべなければ説明になっていない。また序列化や過度の競争が生じるおそれは、教委の指導でたやすく無にできるものである。
  • (4)学校及び市町教育委員会等からの「協力が得られなく」「情報が得られなく」云々と云うが、公表しなくとも様々の不正はあったし、不正は教委、学校、職員の倫理腐敗であり、教育界自体の欠陥でないか。
  • (5)そもそも、各学校や教科毎の平均点を求めるのは、様々な不均等、不十分があり、それらを是正し教育全体(生産性も含め)をひきあげる為である。広く市民、国民に公開し、知恵を借り、官民のよりよい協力関係をめざすべきである。一部の者(国、県)が公と称し、支配的立場に立ってはならない。

第4 実施機関の説明の要旨

非公開理由等説明書による説明は、おおむね次のとおりである。

1 条例第7条第1号の該当性について

香川県情報公開条例第7条第1号では、個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものを非公開情報と定めている。ただし、本号のただし書に掲げる情報については、非公開情報から除くこととしている。

  • (1)個人の識別性について
    平成21年度香川県内には、小学校186校、中学校72校に児童生徒が在籍しているが、小規模校が多い地域もある。平成21年5月1日現在、小学校第6学年の児童数、中学校第3学年の生徒数が1名以上10名以下の学校が、小学校で16校、中学校で6校存在する。これらの学級では、学校別の平均正答率が公開されると、学校から各児童生徒に対して自分の正答率が提供されるので、児童生徒や保護者にとって、一部の児童生徒の正答率が分かれば、その他の児童生徒の正答率も容易に推測されることになる。
  • (2)児童生徒や地域住民への弊害について
    学校別の調査結果を公開することによって、極めて正答数が低い児童生徒に対する差別、排除等の感情を誘発するおそれや、当該児童生徒自身の自尊心が傷付けられるおそれがある。
    発達障害のある児童生徒などが、特別支援学級ではなく通常の学級に在籍しながら個別支援を受けたり、就学指導委員会において「特別支援学級相当」と判定を受けた児童生徒が、通常の学級を選択したりする例は少なくない。これら個別支援を要する児童生徒たちも、通常の学級の一員として本調査を受け、集計に含まれることから、当該児童生徒が在籍する学級、特に小規模学級においては、一人、二人の当該児童生徒の存在のために大きく平均正答率が下がる場合がある。例えば、全25問の調査区分において、9人の平均正答数が20問だった場合、平均正答率は80.0%である。正答数が0問であった児童が1名加わると平均正答数は18問、平均正答率は72.0%となり、8ポイント下がることになる。県内の各学校の平均正答率のちらばりから考えてこの差は極めて大きく、小規模になるに従い、さらにその差は大きくなる。
    児童生徒においては、テストの結果に偏重した価値観を抱き、真理の探究や個人の価値の尊重を軽視し、「あの子」がいるから自分の学校の成績が悪いといったレッテルを貼ったり、自分がいるから学校の成績が悪くなると自責の念を持ったりする児童生徒らが出てくる可能性もあり、いじめや不登校の原因にもなりかねない。このように、調査結果の公開は、小規模校の多い地域にあってはより多くの弊害をもたらすものと思われる。小学校第6学年、中学校第3学年において、1学年1学級という規模の学校は、平成21年度、県内には、小学校で92校、中学校で9校存在している。
    小規模校における個人への弊害をなくすために、小規模校を除いて公開することも考えられるが、この場合、特定の個人を識別することは難しくなるが、「個人の権利利益を害するおそれ」がある。
    平均正答率が低い学校があった場合、その学校に対する様々な憶測が起こり、児童生徒も含めて、地域住民にも偏見による風評被害がおよび「個人の権利利益を害するおそれ」があると考えられる。また、このような偏見が、いわゆる越境入学等の問題を生むことにつながる。
    なお、小学校・中学校が1校しかない市町(学校組合)教育委員会が、小学校で1町、中学校で4町1学校組合あり、これらの町・学校組合別の調査結果を公開することは、各学校別の調査結果を公開することと同じ結果になる。
    したがって、本件行政文書の非公開部分は、公にすることにより、特定の個人に関する情報を明らかにしたり、個人の権利利益を害するおそれがあるので、条例第7条第1号本文に該当し、ただし書に該当しない。

2 条例第7条第4号の該当性について

条例第7条第4号では、県の機関等が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものを非公開情報と定めている。

  • (1)国会等の審議及び実施要領並びに国との信頼関係について
    文部科学省の実施する本調査については、学校の序列化、過度の競争をあおるおそれがあることや、児童生徒の個人情報の観点から、実施そのものについて、国会等で様々な審議が行われた経緯があり、同省において、実施方法、公表方法については、学校の序列化、過度の競争につながらない配慮をする旨説明し、調査結果の公表は、国全体、都道府県単位、政令指定都市等の単位での公表のみとし、市町村別や学校別などの結果は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づく請求がされても非開示とする旨を実施要領において明示している。
    中でも、平成19年4月20日、衆議院教育再生に関する特別委員会で、安倍内閣総理大臣(当時)は、「全国の学力・学習状況調査においては、個々の市町村名や学校名を明らかにした結果の公表は行いません。そして、学校間の序列や過度の競争をあおらないように、十分我々は配慮をしなければならない、こう考えています。一方、教育再生会議の第一次答申で提言をされておりますとおり、各学校が説明責任を果たすために、保護者に対して自校の学力や学習状況とその成果や改善計画を説明することは重要であろうと思いますし、また、規制改革・民間開放の推進に関する第三次答申においては、調査結果については、学校ごとの教育施策や教員自身の指導方法の改善に資する資料として活用すべきとしているところであります。これらの答申の趣旨を踏まえまして、調査結果による学校のランクづけではなくて、それぞれの学校が自校の学力等の状況を把握し、向上させることを促していく必要はある、こう考えています。」と、答弁している。
    また、実施要領7(5)アにおいて、調査結果の公表についての配慮事項として、「都道府県教育委員会は、域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと。」としている。さらに、平成21年度の実施要領には、9(1)オ「各教育委員会、学校等においては、提供された調査結果等について、本実施要領に基づいて適切に利用するとともに、管理を徹底するために、必要な措置を講ずること。また、関係機関等に対して調査結果等を提供する場合には、提供を受ける機関等において本実施要領の趣旨が遵守されることを前提とするとともに、本実施要領の趣旨に基づいた取扱いが行われるよう必要な措置を講ずること。」を平成20年度の実施要領の内容に加え、非公表の徹底を指示・要請している。
    さらに、平成21年度全国学力・学習状況調査の結果の取扱いについて(平成21年8月24日、文部科学省初等中等教育局長通知)においては、国が公表する内容を除くものについて、「これが一般に公開されることになると、序列化や過度な競争が生じるおそれや参加主体からの協力及び国民的な理解が得られなくなるなど正確な情報が得られない可能性が高くなり、全国的な状況を把握できなくなるなど、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられるため、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第6号の規定を根拠として、同法における不開示情報として取り扱うこととする。」としており、各教育委員会においても、「それぞれの情報公開条例に基づく同様の規定を根拠として、適切に対応する必要がある」としている。
    むろん、実施要領には法的拘束力があるとは認めにくく、こうした規定をもって直ちに市町別・学校別の調査結果が非公開となるものではないが、条例の解釈においては、こうした実施要領作成までの経緯、慎重な審議の結果作成された実施要領の規定も参考にする必要がある。加えて、都道府県教育委員会は実施要領の内容を前提に本調査に協力しているのであるから、国との関係においては、実施要領の内容を条件とする契約類似の関係にあるといえ、実施要領にも一定の拘束力が生じると考えられる。
    こうしたことを考えると、実施要領で国が都道府県教育委員会に配慮を求めているにもかかわらず、一方的に本調査の市町別・学校別の調査結果の公表を行うことは、国との信頼関係を損なうものであるといえる。
  • (2)市町等教育委員会との信頼関係について
    市町等教育委員会は、県教育委員会が市町別・学校別の調査結果を公表しないという実施要領の内容を前提に本調査に参加しており、県教育委員会から市町等教育委員会に対して結果の公表について、実施要領と異なる取扱いを行う等の事前の説明をしていなかったことを考慮すれば、市町等教育委員会は、市町別・学校別の調査結果について、県教育委員会が公表することは想定していないと考えられる。
    したがって、県教育委員会が本調査の市町別・学校別の調査結果を公表すれば、参加の前提条件である「公表しないこと」を一方的に変更することになり、市町等教育委員会の県教育委員会に対する信頼関係を損なうおそれがある。さらに、今後本調査に不参加を表明する自治体が発生し、本調査の実施に支障を来たすおそれがある。
  • (3)学校別平均正答率の公開の弊害について
    本調査の調査結果は、パーセントで表されるものであるから、調査結果が公開されれば、その結果がどのような状況の下で、どのようにして得られたものかなどは捨象され、結果のみが独り歩きをしやすいことは明らかと思われる。例えば、ある学校の平均正答率が当該地域の平均正答率より低かったとすると、教師や学校の教育の在り方のみが批判の対象とされたり、逆に保護者を含めた児童生徒の能力、地域の教育環境等の問題に帰せられたりし、結果として、あの学校は教師が悪いとか、あの学校の児童生徒は能力的に劣るとかといった評価がされやすくなる。自分の学校は悪い、あそこの学校は良いなどの先入観が形成されることにより、愛校心、郷土愛が欠如し、誤った劣等感を持つといった現象が起こり、知識・技能面に偏った、自ら学ぶ意欲を持たない児童生徒が増えるといったことなどが危惧され、その結果、いわゆる学校間の序列化につながりかねない。
    これは、国民に対して等しく教育を施すことを目的とした公教育の在り方からすれば、公立学校、特に小・中学校の序列化は、決して好ましいものではない。地域社会で生活する児童生徒には小・中学校を選択する余地はほとんどないことから、序列が下位となった学校で学ばなければならない児童生徒は、不公平感や劣等感を抱いたり、当該学校や地域社会への反感を抱いたりして学習そのものへの意欲が減退することが予想されるし、他の地域からのいわれなき偏見や差別を受けるおそれもある。
    学校別の平均正答率等が公表されるようになると、学校及び教師は、その心理的プレッシャーから、調査直前に前回の調査問題に繰り返し取り組ませるなど、順位、点数を上げるためのテスト対策をこれまで以上に行うおそれがあるが、限られた授業時間数の中でそのようなテスト対策がはびこれば、出題内容に直接関係する部分のみの定着は図られても、その他の資質や能力、すなわち、学ぶ意欲や自ら課題を見付け、解決する能力等の育成を図る授業から離れていくこととなる。
    このように学校別の平均正答率の公表は、児童生徒が確かな学力を身に付ける上ではマイナスに作用し、課題の把握、授業の改善、学力向上という本調査の本来の目的に支障を来すおそれがある。
    また、これらの状況が発生することは、教育基本法の改正等により明確となった教育の理念であり、学習指導要領改訂の基本方針である「生きる力」を育成することの主旨に反するものとなる。「生きる力」とは、変化の激しい社会を担う子どもたちに必要な力であり、基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、たくましく生きるための健康や体力など(平成8年7月中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」)であり、学校別の平均正答率等の公表によって、この主旨に反する事態になれば、学校現場に大きな混乱を招くことになりかねない。
    したがって、本件行政文書の非公開部分は、公にすることにより、本調査のみならず教育行政の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるので、条例第7条第4号に該当する。

第5 審査会の判断理由

1 判断における基本的な考え方について

条例は、その第1条にあるように、県民の行政文書の公開を求める権利を具体的に明らかにするとともに、行政文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、県の保有する情報の一層の公開を図り、県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的として制定されたものであり、審査に当たっては、これらの趣旨を十分に尊重し、関係条項を解釈し、判断するものである。
なお、非公開情報の該当性の判断に当たっては、実施機関が主張する非公開理由のうちのいずれかに該当すると判断した情報については、他の非公開理由の該当性についての判断は行わないものである。

2 本件行政文書の内容について

平成21年度全国学力・学習状況調査(以下「本調査」という。)は、国(文部科学省)が実施主体、都道府県教育委員会、市町村教育委員会等が参加主体となり、各教育委員会、学校等が、全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図るとともに、そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立することを目的として実施されたものである。
本件行政文書は、本調査において、「平成21年度全国学力・学習状況調査に関する実施要領」(平成20年12月24日付け20文科初第1067号、以下「実施要領」という。)の規定により文部科学省から提供された調査結果である。小学校調査・中学校調査それぞれに別に「実施概況」としてまとめられており、各市町(学校組合)教育委員会(以下「市町等教育委員会」という。)及び各学校別に、教科に関する調査(国語A・国語B、算数A・算数Bまたは数学A・数学B)及び学習意欲や学習方法等を問う質問紙調査を受けた児童生徒数及び教科に関する調査の平均正答数・平均正答率(以下「平均正答数等」という。)が記載されている。
なお小学校調査は、4月21日に実施した調査結果を集計したものであり、中学校調査は、4月21日に実施した調査結果を集計したもののほか、4月21日の調査結果に後日実施(4月22日以降5月8日まで)の調査結果を加えて集計したものがある。

3 非公開情報該当性について

条例第7条第1号は、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーを最大限に保護するために定められたものであるが、プライバシーの具体的な内容が法的にも社会通念上も必ずしも明確ではなく、その内容や範囲は事項ごと、各個人によって異なり得ることから、本条例は、プライバシーであるか否か不明確な情報も含めて、特定の個人が識別され得る情報を包括的に非公開として保護することとした上で、さらに、個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものについても、非公開とすることを定めたものである。
しかし、これらの個人に関する情報には、個人の権利利益を侵害しないと考えられる情報及び公益上の必要があると認められる情報も含まれているので、これらの情報を本号ただし書で規定し、公開することを定めたものと解される。
条例第7条第4号は、県の機関等が行う事務又は事業の目的達成又は適正な執行の確保の観点から、当該事務又は事業に関する情報の中で、当該事務又は事業の性質、目的等からみて、公開することにより、将来の当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報については、非公開とすることを定めたものであると解される。
この基本的な考え方に基づき、実施機関が本号に該当するとして非公開とした部分について検討する。

  • (1)各学校別の調査結果について
    異議申立人は、生徒数が少ないとは何人以下を指しているのか、個人識別という限り一人であるべきではないかと主張している。
    これに対して実施機関は、各学校別の調査結果を公開した場合、調査対象人数が1名以上10名以下である小規模校の児童生徒及び保護者は、一部の児童生徒の正答率が分かれば、その他の児童生徒の正答率も容易に推測できるようになること、また調査対象人数が10名以上である学校であっても、平均正答率が低い学校に対して様々な憶測が起こり、当該学校の児童生徒も含めて、地域住民に偏見による風評被害がおよび、個人の権利利益を害するおそれがあると主張している。
    1学校の調査対象児童生徒数が1名の学校については、当該学校の平均正答率等を公開すれば、当該学校の調査対象児童生徒の正答率等を明らかにすることになることはもちろん、2名以上の学校についても、その1校あたりの調査対象児童生徒数が少ないほど、実施機関が主張するとおり、調査対象児童生徒及びその保護者が、当該調査結果と自己の持つ情報や他の児童生徒等から得た情報と照合することによって、その他の児童生徒の調査結果を明らかにできたり、平均正答率より高いか低いかを具体的に推測できたりする可能性が高くなると考えられる。
    また、調査対象人数の多い学校については、その調査結果を公表したとしても、ただちに個人を識別できることにはならないと考えられるが、一方当該学校の平均正答数等と、全国平均や香川県平均、他の学校との比較が行われることは容易に想定される。
    そして文部科学省は、「平成20年度全国学力・学習状況調査追加分析について」(平成20年12月15日付け報道発表)のうち「児童生徒の生活の諸側面等に関する分析」において、児童生徒の学力には基本的生活習慣と家庭での学習習慣が大きく関係し、学習習慣には家庭でのコミュニケーションが影響している旨の分析を行っている。
    そのため、本調査結果を不特定多数者に公開した場合、第三者がこうした分析を踏まえて、当該学校の平均正答数は、調査対象児童生徒の能力及び家庭環境をそのまま反映したものと捉え、調査対象児童生徒やその家庭環境、また当該学校がある特定地域に対して偏見を抱いたり、差別を行ったりする可能性が考えられる。
    そして、当該学校の児童生徒及びその保護者がそのような偏見等に接した場合、不快感を抱いたり、当該児童生徒の能力や家庭環境等について劣等感を感じたりするおそれがある。
    よって、学校別調査結果は、公にすることにより、特定の個人を識別できたり、特定の個人を識別することはできないが、なお個人の権利利益を害したりするおそれがあるため、条例第7条第1号本文に該当し、ただし書に該当しないと判断される。
  • (2)市町等教育委員会計について
    異議申立人は、実施機関が条例第7条第4号に該当するとして非公開と決定したことについて、序列化や過度の競争が生じるおそれは教育委員会の指導により解消できる程度のものであること、また市町等からの協力や情報が得られなくなるというが、それは調査結果の公表とは関係がない旨主張する。
    これらのうち、市町等教育委員会との信頼関係について、実施機関は県教育委員会が本調査の市町等教育委員会計及び市町等立学校別調査結果(以下「市町等別調査結果」という。)を公表すれば、参加の前提条件である「公表しないこと」を一方的に変更することになり、市町等教育委員会の県教育委員会に対する信頼関係を損なうとともに、今後本調査に不参加を表明する自治体が発生するなど、本調査の実施に支障を来たすおそれがあると主張している。
    そこで、この点について検討する。
    まず本県における本調査は、実施要領に記載された調査日程や調査方法等に従って実施されていることから、県教育委員会や市町等教育委員会が、実施要領の内容を前提として調査に参加していることは明らかである。
    そして、同じく実施要領7.(5)「調査結果の取扱いに関する配慮事項」には、各教育委員会における調査結果の取扱いについても具体的に記載されており、都道府県教育委員会については、7.(5)アに「域内の市町村及び学校の状況について個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わないこと。」と記載され、また参加主体である市町等教育委員会については、7.(5)イに「保護者や地域住民に対して説明責任を果たすため、当該市町村における公立学校全体の結果を公表することについては、それぞれの判断にゆだねること。ただし、市町村教育委員会は、域内の学校について個々の学校名を明らかにした公表は行わないこと。」と記載されていることから、市町等教育委員会は、これらの内容についても調査の前提として了解していると認められる。
    また、実施機関は、結果の公表について実施要領と異なる取扱いを行う等の説明を行っていないと主張している。
    そうすると、市町等教育委員会は、県教育委員会が市町等別調査結果を公表することは想定していないと考えられる。
    さらに、平成19年10月時点の報道機関による県内17市町に対する本調査結果の公表に関する照会についても、全市町が市町別や学校別の平均点などの数値については公表しないと回答している。そして、審査会で確認したところ、現在も坂出市教育委員会が市全体の平均正答率(小学校調査及び4月21日に実施した中学校調査結果のみ)を公表しているのみであり、その他の市町等教育委員会は公表していない。
    これらのことから、坂出市教育委員会は、市全体の平均正答率(小学校調査及び4月21日に実施した中学校調査結果のみ)以外の調査結果を、その他の各市町等教育委員会は当該市町等別調査結果の全てを公表しないと判断していると認められる。
    したがって、これらの調査結果を県教育委員会が公開すれば、各市町等教育委員会が本調査の前提として了解している実施要領の内容を県教育委員会が一方的に変更し、市町等教育委員会にゆだねられている調査結果の公表方針について、これまでの市町等教育委員会による検討結果を侵害するとともに、今後検討する機会を奪うことになると考えられる。その結果、市町等教育委員会の県教育委員会に対する信頼関係を著しく損ない、今後の本調査の抽出調査に市町等教育委員会が参加しなくなったり、県教育委員会が本調査において行う指導・助言・連絡等の事務に支障をおよぼすなど、実施機関が主張するとおり調査が困難になるおそれがあることから、条例第7条第4号に該当すると判断される。
    ただし、坂出市の小学校調査結果及び4月21日に実施した中学校調査結果のうち、市全体の平均正答率は坂出市教育委員会が自ら公表しているものであり、また市全体の平均正答数は、文部科学省が公表している各教科の問題数に坂出市教育委員会が公表している市全体の平均正答率を乗じれば明らかになるものであることから、いずれも条例第7条第4号には該当しない。
  • (3)県教育委員会計について
    小学校調査における県教育委員会全体の調査対象児童数は計7名に過ぎず、内訳である2校の学校名及び当該学校の調査対象児童数も明らかである。そのためこれを公開すれば、調査対象児童及びその保護者が、当該調査結果と自己の持つ情報や他の児童等から得た情報と照合することによって、その他の児童の調査結果を明らかにできたり、平均正答率より高いか低いかを具体的に推測できたりする可能性が高くなると考えられる。
    一方、中学校調査における県教育委員会全体の調査対象生徒数は計170名であり、調査結果を公表したとしても、ただちに個人を識別できることにはならない。しかし調査対象生徒数のうち県立中学校2校の生徒が全体の93.5%を占めていることから、これを公表すると、香川県における県立中学校全体の集計結果を具体的に推測することが可能になる。なお後日実施を含む調査結果においても、県立中学校2校の生徒が計171名のうち92.9%を占めており、同様の状況にある。
    そうすると、各学校別の調査結果を公表した場合と同様に、第三者が香川県における県立中学校の生徒やその家庭環境に対して偏見を抱いたり、差別を行ったりする可能性が考えられる。
    そして、当該学校の生徒及びその保護者がそのような偏見等に接した場合、不快感を抱いたり、当該生徒の能力や家庭環境等について劣等感を感じたりするおそれがある。
    よって、小学校調査及び中学校調査における県教育委員会計については、公にすることにより、特定の個人を識別できたり、特定の個人を識別することはできないが、なお個人の権利利益を害するおそれがあるため、条例第7条第1号本文に該当し、ただし書に該当しないと判断される。
    よって、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。

第6 審査会の審査経過

当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり審査を行った。
(省略)

401号~450号 451号~500号 501号~

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