農村歌舞伎 土庄町肥土山

川奥地区

 肥土山地区は小豆島の土庄町にある集落で、高松港から高速艇とバスを乗り継ぎ1時間ほどのところにあり、県の無形民俗文化財に指定されている「肥土山農村歌舞伎」が古くから受け継がれています。「肥土山農村歌舞伎」は、1686年に庄屋の太田伊左衛門典徳が地区の上流にある蛙子池を築造し、その池から離宮八幡神社の境内まで水が流れてきたのを喜んだ住民が仮小屋を建てて芝居をしたのが始まりと伝えられており、330年以上も続く伝統文化。混住化や住民の高齢化が進む中、現在も地区の皆さんで歌舞伎を守り続けています。

高尾さん

 肥土山地区は6つの小さな組に分かれており、6年に1度世話人が当たります。今年の世話人に当たったのは、肥土山地区で農業を営む佐伯達也さん。
 「歌舞伎は、役者はもちろん、三味線、浄瑠璃、化粧、とこやま(かつら)、道具類に至るまですべて地区の人達70人ほどで手分けしてやっていますので、これまで地区外の人の力は借りずに行ってきました。稽古は、昔は大世話人のところでやっていましたけど、今は小学校跡地のアクティブ大鐸で、かつての教室を利用して行っています。子供歌舞伎の稽古が始まったのが2月下旬からなので、もう2か月ほど練習していますね。皆さん仕事がありますので稽古は夜からになりますが、上演直前になると舞台の上で本番さながらの稽古が行われます。ちょっと舞台見ますか?」

指導の状況

 舞台は、国の重要有形民俗文化財に指定されており、寄棟造り、茅葺・本瓦葺下屋付で、舞台には人力で動かす廻り舞台やセリが設けられています。明治時代に建て替えられていますが、天井に組まれているたくさんの竹や上演の際には幕で隠れてしまう大きな梁からは、歴史と伝統を感じることができます。舞台袖には所狭しと道具類が並べられており、拝見した時にはちょうど稽古の準備がされていました。

試食の状況

 「この桜の幕も保存会の大道具担当が手作りします。あちらの千畳敷の畳の間の背景や大道具もそうです。狭い舞台ですから、大道具も芝居が終わるたびに全部ばらして、次の芝居のために新しく組みますので、幕間が長いんです。今は少なくなりましたが、幕間には、この地域特有のわりご弁当(大きい弁当箱にたくさんの小さな弁当が入ったもの)を食べる文化もあり、お客さんは次の演目を待つ間、周りの方と話をしながら弁当を食べて過ごします。」
 2007年に肥土山地区で全国地芝居サミットが開催されたこともあり、近年は歌舞伎に興味を持つ方や歌舞伎への参加者が少しずつ増えているそうですが、島内の若い人は減少しており、子供歌舞伎の担い手を集めるのには苦労するそうです。
 また、島の高齢化が進むにつれ農家の方々も減少の一途をたどっており、地区の農地をどのように守るかが喫緊の課題となっています。佐伯達也さんはそのような課題を解決しようと、高齢により農業を辞めていく方からたくさんの農地を預かるだけでなく、預かった農地で小学生との田植えや稲刈り、収穫したお米を活用したイベントを行うなど、食育や地域振興にも取り組まれています。

都会の人たちとそば栽培

 「かつてはここもたいていの人が農業をやっていましたから、米も麦も作業の無い暇な時期があり、その中から、照明が無くても夜遅くまで歌舞伎を楽しむことができる満月の日ということで、旧暦の3月14日を選んで上演していました。それが、徐々に非農家が多くなってきますとそういうわけにはいきませんし、島から出ていく人も多いので、せめて歌舞伎には帰ってこられるよう、この舞台が文化財になった頃に上演日を5月3日に変えています。」

美霞洞の四季

 「それから、今年も2軒の農家が高齢化で農業を辞めたため、他の農家が農地を借り受けることになりました。多分これからそういう風になっていくと思いますが、そろそろ借りる側も厳しくなってきてね。歌舞伎はしよるのに周りが草ぼうぼうになっても困るし・・・。だから、他の仕事をしながらでも良いし、自分の食べる分だけ作るのでも良いので、ここの農地を守ってくれる人が出てきてくれたらなと思います。この地区は何人か移住者がいて、その中には歌舞伎に出る子もおるんやけど、オリーブ関係以外で移住しようというのは今のところまだ無いですからね。」

東谷地区のみなさん

 上演日の5月3日は青空が広がり、絶好の歌舞伎日和でした。役者の方、浄瑠璃の方、三味線の方は、裏方でご尽力される方々にも支えられ、大勢の見物客を楽しませており、大向こうが響き渡る離宮八幡神社の境内は活気にあふれていました。現地に来ることで、330年以上にも渡り肥土山農村歌舞伎が受け継がれてきた理由がほんの少し分かった気がします。

東谷地区のみなさん

 「きっと、この辺りの人は集まってわいわい言うのが好きなんだと思います。確かに、セリフとか振り付けを覚えないかんのですが、練習中もみんなでああだこうだと言ったり、たまに休んで一杯やったりね。だから、結構楽しくやってますよ。そうすることで、芝居とこの肥土山地区を守っていかないかんという気概が生まれるんではないでしょうか。」
 みなさんも一度、肥土山地区の方々が作る農村歌舞伎の雰囲気を体感してみてください。