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公開日:2020年12月10日

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研究機関の調査結果

1)竹林の侵入・拡大状況

1.竹林拡大の実態解析

香川県下の里山地域における竹林の分布拡大の現状と植物多様性の解析に関する研究

森林総合研究所四国支所 鳥居厚志、酒井敦、奥田史郎

  • さぬき市の調査対象地域については、空中写真判読の結果、1992年から2000年の間に、竹林の総面積は、12.8haから22.0haに増加していた。
  • 竹林拡大の状況に不自然さが見られない箇所について、拡大速度は0.53~2.11m/yr.であり、中央値は1.46m/yr.であった。
  • 従来報告のないマダケについても、分布拡大が起こっていることが明らかになった。モウソウチクとマダケの総面積でみた拡大率に大差はない。しかし個々の群落の拡大率をみると、モウソウチクは拡大率が比較的一定レンジに収まっているが、マダケは拡大率がばらついている。
  • マダケの方がモウソウチクよりも径・長ともサイズのばらつきが大きく、平均すると、モウソウチクよりも小型である。
  • 拡大中のタケ群落が多く、とくにマダケは樹木との混成状態がモウソウチクより多く見られる。

2.竹林拡大の実態解析

空中写真から判読した竹林の分布と拡大速度 -1974年から2000年の変化

高知大学 後藤純一

  • 県内3調査区で725.16haから1,728.29haと2.4倍に拡大しており、竹林が占める割合も5.38%から12.83%に達している。
  • 南向き斜面で竹林割合が増加する傾向が強い。
  • 標高が100~300mの地点で竹林が拡大し、700mを超える地点での分布は著しく低い。
  • 尾根・谷といった地形と竹林の拡大と関係は明瞭ではない。
  • 傾斜30%未満の地点で分布が多く、60%を超える地点での分布は著しく低い。
  • 調査地全域の57.8%である花崗岩類からなる地点が竹林拡大面積の86%を占めており、その面積割合の増加率は約11%と高い。
  • 竹林の拡大距離は、1.5m前後であり、1991年以降に拡大が加速している。
  • 拡大速度と関係のある要因は、土壌型、土地利用条件、標高あるいは暖かさの指数であり、植物として生育条件に適した土地での速度が大きい。
  • 標高が低く温暖であるほど拡大速度は速い。
  • 拡大は、いずれも人為的な土地利用の影響を受けており、過去を遡って耕作の有無を追跡して調査することが際立った竹林拡大が予測される場所を峻別する有効な方法であることが示唆された。
  • 1974年から2000年までの竹林の分布から拡大速度を推定すると、1975年から1991年にかけての拡大速度よりもその後の拡大速度が大きく、早急の対策が必要である。

2)生物多様性(植物)への影響

1.里山地域における竹林の植物多様性

香川県下の里山地域における竹林の分布拡大の現状と植物多様性の解析に関する研究

森林総合研究所四国支所 鳥居厚志、酒井敦、奥田史郎

  • 良く発達した竹林内では、周囲林分に比べて林内は暗く、植物の出現種数や種多様度は減少する傾向がみられる。
  • マダケの方がモウソウチクに比べてサイズの小さい稈を多くした多くした状態の林分になる。
  • マダケは拡大侵入の形態でモウソウチクに比べて、混生状態の“潜在的竹林”を維持するなど変異が大きい。

2.竹林における植物種組成と林分構造の比較

東讃岐地域における竹林、広葉樹林および針葉樹林間での植物種組成と林分構造の比較

香川大学 小林剛、幸喜章郎

広葉樹とモウソウチクが混在している林分における稈の除伐は林内の光強度を大きく改善した。このことは、適切な管理(タケ類の皆伐)は景観の改善だけでなく、他の林分への転換を促進させることが可能になることを示唆している。

3)生物多様性(動物)への影響

1.竹林と広葉樹林の昆虫相

竹林と広葉樹林の昆虫相(ライトトラップ調査)

香川大学 安井行雄、市川俊英、伊藤文紀

広葉樹林と竹林間、および季節間で比較したが、竹林よりも広葉樹林のほうが多くの昆虫が採集された。鱗翅目(シャクガ科、ヤガ科、メイガ科などが主体)は、いずれも広葉樹林において竹林の2倍以上の個体が採集された。一方、甲虫目では、竹林においても特定の種(例えばミヤマカミキリ)が集中してとれたことから顕著な差がみられない。トビケラ目や膜翅目は竹林と広葉樹林で季節変動以外の差はみられない。

2.竹林におけるアリ相および地表歩行性動物相

竹林におけるアリ相および地表歩行性動物相:広葉樹林との比較

香川大学 伊藤文紀、池下衡平、小笠原貴子、安井行雄、市川俊英

一般に竹林では昆虫相が単調で、種数・個体数ともに広葉樹林よりも少ないと考えられている。しかし、アリ類では顕著な種数・個体数の減少は見られなかった。また、その他の地上歩行性節足動物数も、竹林と広葉樹林間で大きな違いはなかった。

3.竹林における鳥類相

ドングリランドの鳥類相

香川大学 伊藤文紀、池下衡平、小笠原貴子、安井行雄、市川俊英

広葉樹林とため池・畑など多様な構成要素からなる環境や林縁部では景観の変化とともに多様な種が出現しており、空間が開けていて見通しがきくこともあって多くのもが確認される。一方、竹林が広葉樹林に侵入する林内では鳥類相を単純化させる可能性が見られた。その原因としては、広葉樹に比べてタケは枝葉が少なく、鳥が営巣したり、休息したり、採餌したりする空間が少ないこと、高密度に密生するために林内が暗くなり、下草が生えず、他の樹種の成長を妨げるため、植物相が単純になり、その結果鳥類の餌となる昆虫の種数・個体数や種子・果実等の種数・バイオマスなどが減少してしまうことなどが考えられる。

4)公益的機能への影響(竹林の侵入・拡大による森林への影響)

1.地下茎などの分布

地下茎などの分布について

高知大学 徳岡正三

タケ林の外縁では、地下茎が直線的に伸長し、その地下茎から根が広がる。いうまでもなくこの段階では地下茎の密度は低く、タケの細根とタケ以外の根とが混在するのが見られ、A0層も多い。地下茎が縦横に伸長すると、地上もタケ稈が密生し、他の植物の生育が阻害される。こうしてA0層はタケのリターだけとなり、地中もタケの地下茎と細根だけになる。こうなるとタケという単一な植物が地上・地中を占めるだけとなり、特異な環境が形成される。このような特異な地上・地下環境が形成されることは、生物の多様性維持に逆行しており、また、土地の劣化をも引起しかねず、タケ林の放置は望ましい傾向をもたらすものでないと言える。

2.竹林の保水力

竹林の保水力調査

高知大学 日浦啓全

竹林斜面土壌での水分特性についてまとめると以下のとおりである。

  • 竹のルートマットが集中し、孔隙の多い地表から30cm程度までの土層の透水性が高い。
  • 降雨に対する体積含水率の変化は、同降雨量であっても降雨強度により異なる。
  • 土層深度では体積含水率の値は小さいが、花崗岩類の竹林斜面と砂岩主体のヒノキ人工林斜面の土層を比較しても表層部では植生の影響が強く、著しい差は生じない。
  • 竹林のルートマットの存在のために斜面平行方向の浸透成分が多くなる。
  • 植生の影響ある表層部での雨水の浸透速度に地質による違いは無いが、基盤岩の性質の違いは表層物質の性質に影響を及ぼし、斜面深部での鉛直下方への浸透速度をある程度決定する。
  • 皆伐による植生被覆の除去は地表面付近の土壌水分に大きく影響するが、地下50cmではほとんど影響がない。

3.地球温暖化防止吸収源としての竹林

香川県下の里山地域における竹林の分布拡大の現状と植物多様性の解析に関する研究

森林総合研究所四国支所 鳥居 厚志、酒井 敦、奥田 史郎

  • タケ類の稈密度は平均的にマダケ林(9,500~11,600本/ha)の方がモウソウチク林(5,200~7,900本/ha)に比べて多く、逆に平均稈胸高直径はモウソウチク林(11.5~12.3cm)の方がマダケ林(5.8~7.7cm)より大きかった。
  • タケ類の侵入と主に落葉広葉樹の競合に伴って枯死木が発生していることが要因となって、竹林と周囲林分の境界域での推定炭素量が少ない。
  • 約100C-ton/haとやや大きい竹林もあるが、他の竹林では概ね炭素貯留量は50C-ton/ha前後で炭素貯留量としては多くないと考えられる。成熟した広葉樹林や針葉樹などでも竹林より大きな炭素貯留量をもつことが多く、その点でも竹林の状態で放置されることは、現存量としての炭素量としてみると低い値で頭打ちとなる可能性が高い。
  • 既存の地上部現存量調査による推定値と今回の値を比べてみると、今回調査した竹林における地上部現存量の推定値は、他の針葉樹林、広葉樹林に比べて低い値を示していると考えられる。多くの竹林でみられた100ton/haの現存量は若齢人工林の値に近く、竹林の地上部現存量は相対的に小さいと思われる。
  • 葉量については、マダケ、モウソウチクともに、4~5ton/haとなっており、スギなど一般的な針葉樹人工林が20ton/ha前後であるのに比べるとはるかに小さく、落葉広葉樹林の値に近かった。

5)循環利用資源量

1.竹林伐採後のタケ再生量

香川県下の里山地域における竹林の分布拡大の現状と植物多様性の解析に関する研究

森林総合研究所四国支所 鳥居厚志、酒井敦、奥田史郎

  • 伐採後1年の稈の再生本数は、マダケ(106,000~131,000本/ha)の方がモウソウチク(13,200~22,000本/ha)に比べて数倍多く、稈のサイズは、地際直径、高さともに逆にマダケがモウソウチクに比べて小さく、一斉林分と同じ違いを示した。
  • 面積当たりの地上部現存量は、平均値でマダケが約11ton/ha、モウソウチクが約15ton/haと推定され、成林状態に比べると樹種間の差が小さいが、いずれの樹種とも成林状態に比べて8~12倍小さかった。
  • 葉量は、いずれの樹種とも約4ton/haと成林状態と大差なく、地上部現存量の違いは稈の重量の違いを反映していると言えよう。

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