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(ナラティブとは「物語」や「語り」といった意味です。)
長い勤務年数の中で、経験したこともない小児科、医師1人に看護師1人という外来に、どうしょう、できるのかな、感情表現が苦手だし、子供に接するの下手だし、困ったな、不安な気持ちのまま、4月がきてしまった。
待ったなしで次々と受診に来る子供達に、恐る恐る声掛けをしてみるものの、「う~ん、だれ?知らない人…」という表情である。
子供は正直、言葉もストレート「あれ!変わったの、前の人は?どこへ行ったの?」、「ごめんね…、変わったの…」と言いながら緊張の毎日である。
最初の1、2ヶ月は弱気になって、無理かな…、やめたいな…と思ったこともあったが、徐々に子供たちと接する楽しさが分かりだすとともに、いろいろな人に助けられ、小児科が成り立っていることが分かってきた。
5階ロビーにある大きなカレンダー、毎月わくわくするような、思わずにっこりしてしまいそうな、素敵なデザインのカレンダーを届けてくれる運転手のOさん。5月は、真っ赤なくまさんと金太郎のシーソー遊び。8月は、時間が止まったようなオアシスの夕焼け。10月は、紅葉していく葉っぱのパレード。次はどんなデザインかな?密かに心待ちにしている人もいるはず。
箱一杯ぬいぐるみのプレゼントもOさん。それらをふわふわに蘇らせてくれたのは洗濯室のSさん。
週1回の決まった曜日以外にも、子供が吐いたり、便を付けて汚した洗濯物を出しても、「気にしないでこれが仕事なんだから、いつでも言って」と、気持ちよく引き受けてくれる。
四角や三角のカラークッションを1個ずつ洗ってくれたり、「このぬいぐるみが気になるけど、喘息の子供に大丈夫かな」と心配し、「少しずつ洗ってみようか」と声をかけてくれ、ぬいぐるみ達が、次々ときれいになって帰ってくる。「赤や青の色物の洗濯をすると、何だか楽しくなるのよ」と笑顔で答えてくれ大助かり、本当に感謝・感謝である。
彦星と織姫の七夕飾り、豚のお昼ね、トンボとコスモスの張り物、素敵なクリスマスツリー、どんぐりのトトロ、折り紙のサンタクロースやピカチュー、いつもかわいい作品達は幼稚園の先生からの好意の贈り物、「テレビをみながら作るのだから、気にしないで」と、気軽く持ってきてくれる。「これ、もらっていいの」と嬉しそうに折り紙を持って帰る子供達、「幼稚園みたい、いつも楽しそうな飾りつけ」と、喜んでくれるお母さん達、多くの人々の好意に助けられ、季節に応じた飾りつけができるのもありがたい。私の力では、とても出来ないことばかりである。
スタッフからも絵本やビデオ、シールが届いたり、時にはこっそりアンパンマンのうちわが束で置いてあったりする。出張のお土産に届けてくれたラムネ菓子も、子供達のお楽しみの一つ、ゼリーやソフトキャンディーも大活躍している。泣いている子供の機嫌を取ったり、良く頑張った褒美に使ったり、緊張している子とコンタクトをとったり、前に置かれたゼリーをみつめて吸入をしたり、棒付き飴と吸入を交互にしたり、大いに役に立っている。
本当に多くの人々の好意に、助けられていることを感じ、ありがたい思いである。
しかし一番助けてくれているのは、子供たち一人一人の笑顔、あどけない仕草である。診察室に入るのをためらう緊張した顔、泣きたいのを必死に我慢、終わった後のホッとした表情、ニコッと笑って手を振る笑顔、最初から最後まで泣き通しの子供、来るそうそうシールを詮索したり、飴を取りに来たり慣れっこの子供、鼻吸引を嫌がり大暴れ、終わった後あれ?なんかすっきりしたかな…という表情、予防注射に大泣き、でも途中で、ん?あんまり痛くないや…と苦笑い、突っ張って生意気を言う子供、廊下に出て「さ・よ・う・な・ら」深々さげる頭、そんな子供達の言動に思わず心が和む。
それは、子供達から頂く大きなプレゼントでもある。そんなプレゼントに、背中を支えられてきたと思う。
近年、核家族化・少子化に伴い、育児においても周囲に相談できる対象者がいない場合も少なくない。熱の上がり下がりに一喜一憂する母親、ご飯を食べない、子供が薬を飲まない、飲んでもすぐに出してしまう、いつ坐薬を入れようか、何かにつけ不安が一杯のお母さん達を、少しでも援助することが、子供たちの為になると思う。
子供達からは、「しんどいから病院行こう」と言って、気軽に来てもらえるような小児科
お母さん達からは、「何でも聞けて安心」と言って、信頼してもらえるような小児科
病院スタッフからは、「5階へ来ると何かホッとするね」と、院内のオアシスのような小児科でありたいと思う。
そして少しずつでも、地域に溶け込んでいける小児科を目指していきたいと思う。
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