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公開日:2020年12月10日

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第2章教員の人事評価制度の在り方について

新しい教員の人事管理の在り方について

第2章教員の人事評価制度の在り方について

I.人事評価制度をめぐる動向

1.勤務評定制度の経緯等

教員を含む地方公務員の勤務評定は、職員の能力や勤務実績を統一的に評定し、その結果を身分取扱いの上で活用することにより公務能率を増進させることを目的とするものであり、地方公務員法第40条の規定に基づいて実施されているものである。

職員の能力や勤務実績が正しく評価され、その結果に基づいて身分取扱いがなされることは職員の志気を高め、公務能率を増進するうえで重要なことであり、勤務評定制度は、地方公務員法の基本理念の一つである能力主義、成績主義を実現するための一つの手段として制度化されたものである。

本県においては、昭和32年12月に全国都道府県教育長協議会から示された教職員の勤務成績の評定に関する規則案をもとに、昭和33年に「香川県立学校職員の勤務成績の評定に関する規則」及び「香川県市町立学校職員の勤務成績の評定に関する規則」が定められ、勤務評定が行われてきたところであるが、勤務評定制度が有効に機能してきたとは言い難い経緯がある。

2.民間及び国の動向
(1)民間の動向

現在、民間企業においては、いわゆるバブル経済崩壊後の経済成長の停滞や個人の価値観の多様化、就労意識の変化等の中で、従来の終身雇用、年功序列賃金といった日本型雇用慣行が見直され、限られた人件費を適正に配分し有効活用を図るといった観点から、個人の能力や業績に応じた処遇を目指すとともに、そうした人事管理を支える人事評価についても、目標管理の手法を導入するなどの見直しが進められているところである。

(2)国の動向

国においては、21世紀の日本にふさわしい新たな行政システムを構築するため、平成12年12月に「行政改革大綱」が策定され、地方分権の推進や規制改革の推進、公務員制度の抜本的改革などが進められているところである。

この内、公務員制度の改革については平成13年12月に「公務員制度改革大綱」が策定され、公務員が互いに競い合う中で持てる力を最大限に発揮し得る環境を整備することや、主体的に能力向上に取り組み、高い使命感と働きがいを持って職務を遂行できるようにすることなどが重要であるとの認識の下に、「能力評価」と「業績評価」からなる公正で納得性の高い新たな評価制度を導入することなどを目指すこととしている。

また、平成12年12月に出された教育改革国民会議報告では、17の提案の中の「教師の意欲や努力が報われ評価される体制をつくる」ということの中で、個々の教師の意欲や努力を認め、良い点を伸ばし、効果が上がるように、教師の評価をその待遇などに反映させることが提言されている。

II.人事評価制度の見直しの必要性と方向性

1.学校現場の状況等

今日の学校を取り巻く状況は、いじめや不登校など解決すべき多くの課題があり、県民からは学校や教員に対して大きな期待や関心とともに厳しい意見も寄せられているところである。

このような中、これらの課題に的確に対応し、県民の信頼に応えていくためには、一人一人の教員の資質能力の向上と、教員が連携し学校全体として教育力を高めていくことが必要である。

しかし、学校は管理職である校長、教頭以外は同じ教諭等の職にある単層型のいわゆる「なべぶた型社会」であり、教員間に横並びの意識が強く、相互に干渉しないといった特徴が見られる。また、民間企業や他の公務部門の職員に比べ、上司の指導や指示を受ける機会も少ないことから、社会の変化に即応した意識改革がなされず、学校の活性化が進まない一因となっている。

2.新しい評価制度の必要性

学校をめぐる困難な状況に立ち向かい、子どもたちが「学校が楽しい」と思えるような教育を展開していくためには、教育者としての使命感や教育への情熱、児童生徒への実践的な指導力などの資質能力を有し、家庭や地域社会との連携や協力関係を築きながら、児童生徒の豊かな成長を支援していくことができる教員を育成していかなければならない。

また、それらの教員がそれぞれの持つ個性や能力を十分に発揮しつつ、校長のリーダーシップの下に有機的・組織的に連携、協働して教育活動を展開していくことによって学校の活性化を図っていくことが必要である。

そのためには、教員各自が自己研鑚を積み、教員集団の中で日々の教育実践を通じて自己改革を果たしていくことが重要なことはいうまでもないが、各自の取組みを待つだけでなく、教員の持つ多様な能力を最大限に引き出し、積極的に人材育成を進めていく人事管理が必要である。

人事評価制度はその基礎をなすものであり、教員の意欲や能力等を客観的、継続的に把握・評価し、人材育成や能力開発につなげていく人事評価制度が求められている。

3.新しい評価制度の方向性

前述のように、これからの人事評価制度は、従来の査定主義的なものから、人材育成や能力開発を目指す能力開発型の評価制度とし、職務遂行状況を的確に把握・評価し、その結果に基づいて具体的な指導・助言を行うとともに、自己啓発・自己改革の取組みを支援できるようなものにすべきである。

また、日々努力を積み重ね意欲的に職務に取り組んでいる教員の意欲や努力が適正に評価され、意欲を引き出し、志気を高めることができるような評価制度でなければならない。

更に、管理職と教員、教員相互の協力関係を築き、学校教育目標の達成に向けて連携、協働して取り組むことにより、学校組織を活性化し、学校全体の教育力を高めることができるような評価制度にする必要がある。

III.新しい人事評価制度の仕組み

教員の日々の勤務状況を的確に把握・評価し、その結果を人材育成や能力開発などに生かしていくためには、客観的で公正な評価が前提となる。

また、教員の職務は多岐にわたるものであり、その成果も短期間では現れにくいこと、教育の成果は数量的に把握することが難しいことなどの特殊性があり、そのことを十分に考慮した評価制度にする必要がある。

本委員会では、このような考え方に立って人事評価制度の仕組みを検討し、試行の結果も踏まえて、以下のように提言することとした。

1.評価の対象となる職務の範囲と評価の要素・項目

評価の対象となる職務は、基本的には勤務時間内の全ての職務及び超過勤務を命じられて行う職務とするのが妥当であろう。

ただし、教員の職務については、勤務時間外においても部活動指導や家庭訪問、校外補導等が個々の教員の献身的な努力により熱心に行われているという教育現場の実態があり、そのような、教員の自発性に基づき校長の承認の下に行われている職務についても評価する必要があると考える。

教員の職務は多様かつ広範囲に及び、その成果も短期間には現れにくいという特殊性があり、一面だけを捉えて評価することのないよう留意する必要がある。

このため、多角的に評価できるよう、職務に取り組む姿勢としての「意欲」、職務上発揮された「能力」、仕事の成果である「実績」の三つの要素について評価するのが適当であると考える。

「意欲」についての評価は、職務に取り組む姿勢や態度として、協調性や責任感など職務遂行に必要な資質は評価の対象とすべきであるが、性格評価など人間性に関わる評価を行うものであってはならない。また、「実績」の評価については、成果のみでなく、結果に至る過程を観察して評価するプロセス重視の評価とすべきである。

更に、教員の特性を把握したり、精度の高い評価とするためには、職務の内容に応じて分析的に評価することが望ましく、教員の職務は基本的に「学習指導」、「生徒指導・進路指導」、「校務分掌」の三つに分類できることから、この職務区分ごとに評価するのが適当であろう。

2.評価の方法等

評価の方法については、人材育成や能力開発を図る観点から、教員に求められる一定の水準を明らかにし、それをもとに評価基準を設定し評価する絶対評価とし、評定要素・項目ごとにまず評定を行い、それをもとに総合評定を行うものとする。評価の段階は5段階とする。

なお、5段階評価になじまないものについては、別途加点又は減点により評価することとし、この内、勤務時間外において教員の自発性に基づき校長の承認の下に行われる職務については、加点により評価することが適当であると考える。

一方、服務規律に関することについては、減点により評価すべきである。

評価の客観性や公正性を確保し納得性を高めるためには、評価基準を明らかにしておくことが必要である。評価の観点を明らかにするとともに、評価者による評価のばらつきを抑えるため、着眼点の具体的事例を示すなどの工夫もすべきであろう。

また、評価者は教員の普段の勤務状況をよく観察し、長所や短所など気づいた点を記録することにより、主観的な評価にならないようにしなければならない。

3.評価者

評価の客観性や公平性を確保し、信頼性の高い評価とするため、評価はできるだけ複数で行うようにすべきであり、教員の評価については、校長を補佐する立場にあり日常的に教員と接する機会の多い教頭を第一次評定者とし、学校の責任者であり所属職員を指導・監督する立場にある校長を第二次評定者とするのが適当である。

校長及び教頭の評価については、職制上、校長については教育長が、教頭については校長が行うものとする。

児童生徒や保護者が教員を評価することについては、児童生徒や保護者は必ずしも教員の職務領域の全般にわたって勤務状況を見ているわけではないことから適当でないと考えるが、校長及び教頭は、児童生徒、保護者、同僚教員などの声を幅広く聴いた上で適切な評価を行うよう特に心がけなければならない。

また、教育長が校長の評価を行う際、教員の声も踏まえて評価できるような仕組みについても検討すべきである。

4.目標管理制度の導入

人事評価制度は、教員一人一人の意欲、能力、実績を的確に把握・評価し、人材育成や能力開発を図ると同時に、学校における教育活動が教員の協働活動によって支えられていることから、そうした活動を促し、それを適切に評価できるものでなければならない。

そのためには、学校教育目標や学校経営方針等の達成に向けて、個々の教員の取組みを有機的に結びつけていく人事評価の手法として、教員が上司との面談を通じて組織目標を踏まえた自己目標を設定し、その達成状況を評価する目標管理制度を導入することが適当である。

目標管理制度は、組織目標の実現に向けた組織的・有機的な取組みが期待されるとともに、自己申告により自らの職務目標を設定することから、より主体的な職務への取組みも期待されるところである。

また、1年間を振り返り、設定した目標に対してどのような姿勢で取り組み、どの程度達成できたか、残された課題は何か等について自己評価を行うため、自己の能力や改善すべき点を認識し、自己啓発を図ることに有効であると同時に、自己評価が考慮されることで評価の納得性も高めることができると考える。

(1)目標設定

目標の設定は、組織目標を踏まえて行うことから、校長は年度当初に学校教育目標や学校経営方針等を全教員に周知し、教員はそれらとの整合性に留意しつつ自己目標を設定する必要がある。

校長・教頭は、教員が設定しようとする目標が適切かどうかについて、教員の考えを尊重しつつ、児童生徒の実態や実現可能性など広い視野から検討し、面談を通じてよく話し合った上で決定する必要がある。

また、教育活動の継続性の観点から、目標管理により達成した成果や残った課題などを次年度の目標設定に生かしていくことも重要である。

なお、年度当初に立てた目標の達成状況等を検証し、状況に応じて年度の途中で目標の修正ができるような仕組みも考慮すべきである。

設定する目標は、教員については、評価項目に合わせ「学習指導」、「生徒指導・進路指導」、「校務分掌」とするほか、教員の職責を遂行するためには絶えず研究と修養に努めなければならないことから「研究・修養」についても明確な目標を設定した上で取り組むことが適当である。

また、校長及び教頭については、学校運営上の課題及び所属職員の指導育成に関する目標とするのが適当である。

(2)面談

校長・教頭は、教員の職務に対する認識や意向について常日頃から把握に努めなければならないが、面談は教員から直接それを聞き、また、校長・教頭から教員に対する期待や努力すべき点、反省すべき点等を述べる良い機会であることを認識し、積極的に意思の疎通を図るよう心がけなければならない。

(3)評価

教員は、設定した目標の達成状況について年度末に自己評価し、それを踏まえて上司が目標の困難度も考慮しながら最終評価することとする。

評価の方法は、教員自身の自己反省とこれに対する指導・助言に活用する目的から、記述式で行うことが適当である。

人事評価は、教員の職務全般について行うものであることから、教員が設定した目標の達成状況のみをもってその教員の実績を評価すべきではない。

従って、目標管理制度における目標達成状況の評価は、勤務評定において職務全般にわたる「実績」を評価する際の重要な評価資料として用いるべきものと考える。

IV.評価結果の活用

人事評価制度は個人の能力や可能性を伸ばすための手段であり、評価のための評価であってはならない。

従って、評価の結果は人材育成、能力開発や適切な人事配置、昇給、昇任等、人材育成・能力開発システムや人事・給与システムと連動し活用されることによってはじめて有効に機能するものといえる。

(1)人材育成・能力開発への活用

最も基本的な評価結果の活用として、人材育成・能力開発システムとの有機的な連携を図っていくべきであり、教員自身の自己啓発に対する支援や指導・助言などに活用するとともに、人事評価制度と連動した研修を行うなど、研修制度の整備・充実についても検討すべきである。

(2)人事・給与処遇への活用

児童生徒のために日々意欲的に職務に取り組んでいる教員の熱意や意欲を適正に評価し、努力に報いていくことは、より活力のある教育現場を実現していく上で重要なことである。

このため、人事上の処遇への反映としては、人事評価を通して個人の能力や適性を把握・評価し、その結果を適材適所の人事配置や校務分掌等の校内人事に有効に活用すべきである。

校長や教頭の任用についても、年功序列にとらわれることなく、その職にふさわしい能力や意欲を持っている場合には、若手教員であっても積極的に登用していくべきである。

また、公務員については、給与上の処遇は勤務成績に基づき運用することが法の趣旨であり、能力・実績に応じた適正な処遇を図る観点から給与上の処遇にも適切に反映すべきである。

その場合、職員の勤務実績が公正に評価されることが重要な前提となるため、活用の仕方や時期などについては、新たな人事評価制度の定着状況も勘案しつつ検討していく必要がある。

(3)優秀な教員の表彰

教育改革国民会議報告では、教員の意欲や努力が報われ評価される体制をつくることが提言されているが、その一つの方法として、意欲的に職務に取り組んでいる教員を支援し、教育の活性化を図る観点から、そうした取組みを行っている教員の功績をたたえる表彰制度について検討することも意義あるものと考える。

V.評価結果の本人へのフィードバック

評価結果を本人にフィードバックすることは、本人が自己の長所や今後努力すべき点を認識し、自己啓発を進めていく上で極めて重要なことである。

このため、評価者は教員の日々の勤務状況を十分観察・記録し、個々の教員の更に伸ばすべき点や改善すべき点について積極的に指導助言を行うなど、常に評価結果を本人にフィードバックすることに努めなければならない。

評定項目ごとの評点(5~1)や総合評定としての評語(S~D)を本人に開示することについては、評点や評語だけにとらわれて指導助言を真摯に受け止めることができず、結果的に人材育成・能力開発に生かすことができなくなることも考えられるため、慎重に検討する必要がある。

VI.留意点等

新しい人事評価制度が信頼性や納得性の高いものとなり、有効に機能するためには以下の諸点について留意する必要がある。

(1)人事評価制度に対する理解

人事評価制度が確実に定着し、様々な場面に活用されることによって、教員の資質能力の向上や学校の活性化という本制度の目的を達成するためには、制度の趣旨や内容について教員の理解度を高めていく必要がある。

このため、各種の研修会等において説明したり、校長から所属職員へきめ細かい説明を行うなど、制度の趣旨や内容についてより一層周知に努めていく必要がある。

(2)管理職の資質能力の向上

評価の客観性・公正性を確保し、信頼性や納得性の高い人事評価制度とするためには、評価者が十分な評価能力を有することが重要であり、評価者の責任は極めて重いといわなければならない。

このため、全ての校長・教頭を対象に、制度の趣旨・内容をはじめ、評価者としての心得や評価の技法、評価基準の統一的理解などについて十分研修を行う必要がある。

(3)開かれた学校づくりの推進

人事評価制度の見直しは、最終的には児童生徒のより良い学校生活を実現するために行うものであり、児童生徒の思いや保護者の意見など幅広い声を踏まえて評価することが大事である。

しかし、県民の中には、保護者や地域住民の声が届きにくいなど学校の閉鎖性を指摘する声もあり、学校内外の様々な声を反映するには、学校評議員制度や学校評価制度を活用するなどして地域に開かれた学校づくりを積極的に推進していくことが望まれる。

(4)より良い制度を目指した不断の努力

新しい人事評価制度が定着し有効に機能していくためには、全ての教員がその重要性を認識し、前向きにその実施に取り組みながら精度を高めていく不断の努力が必要である。

また、国の公務員制度改革による人事・給与制度の抜本的見直しが進む中、そうした動向も見極めつつ、評価結果の本人への開示や苦情処理の仕組みも含めて、時代の変化に応じた見直しを行うなど、柔軟な対応も必要である。

更に、児童生徒の思いや保護者の意見など幅広い声を踏まえて評価ができるような仕組みについて、各学校の実情に応じて工夫する努力も必要である。

 

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