県指定有形文化財(絵画)の指定について
香川県文化財保護審議会(会長胡光)は、令和7年8月5日(火)に開催した同審議会の審議・議決を経て、県指定有形文化財(絵画)の2件の指定について、香川県教育委員会に対し、指定は適当であるとの答申を行いました。
8月27日(水)に開催される県教育委員会8月定例会での審議・議決を経て、指定されました。
1.金刀比羅宮所蔵高橋由一筆油彩画群27面
指定理由
- 高橋由一と香川県の関わり
高橋由一(1828-1894)は、江戸時代から明治前期の絵画史において油彩画技法を含む西洋絵画技法の受容と普及に大きな役割を果たした近代洋画の先駆者である。本県とは金刀比羅宮との関係を基軸に関りが深く、由一は明治12年(1879)の琴平山博覧会に作品を出品するなどした。本作品群は、琴平山博覧会の出展作品などの奉納作品、金刀比羅宮からの依頼作品、高橋由一以外の人から奉納・再奉納された作品などで構成されている。なかでも金刀比羅宮を中心に琴平山(象頭山)を描く「琴平山遠望」、肖像画「琴陵宥常像」(後の宮司)は、金刀比羅宮からの依頼によって当地で描き、明治14年(1881)に奉納された本県との関わりが特に深い作品となる。
- 香川県の近代絵画史の端緒
明治12年の琴平山博覧会における本作品群18点を含む高橋由一作品の公開は、新たな作画技術である油彩画を多くの県民が見る機会となった。そして、香川県出身の洋画家・小林萬吾などの後進を輩出する契機ともなっており、本県の近代絵画史の端緒となる画期的かつ象徴的な作品群としてその価値は高い。
2.渡舟小林萬吾筆1面
指定理由
- 香川県出身の洋画家・小林萬吾
小林萬吾(1868-1947)は、讃岐国三野郡詫間村(現香川県三豊市詫間町)出身の洋画家。文部省の命によりヨーロッパに留学したほか、文部省美術展覧会(文展、後に帝国美術院展覧会、新文展、日本美術展覧会と続く)に出品し受賞を重ねるなど、中央画壇での評価を確立するとともに、東京美術学校や画塾・同舟舎にて多くの後進を育成した。また、在京の香川県出身画家らと銀濤社を結成し郷土出身の芸術家を支援したほか、香川県の美術振興のため昭和9年(1934)に始まる香川県美術展覧会の創設にも尽力するなど、本県における美術の普及発展に多大な影響を与えた。
- 時代を反映
明治後期の洋画界においては、風景画に人物群を配置して抽象的な概念をあらわすことが課題であったが、本作品では乗合船に乗る様々な人物を描き、多様な性格・境遇の人が乗り合わせる「人事趣味」(※)を表現する。入念な描き込みがみられる画面づくりや色彩の工夫など、日本の初期洋画にある写実性と、黒田清輝によって日本にもたらされた外光表現を融合させ、新たな表現として制作した画期的な作品である。本作品は、明治42年(1909)の第三回文部省美術展覧会三等賞を受賞するなど、当時から高い評価を受けており、本県の近代絵画史における先駆的な業績を示すものとして価値が高い。
(※)小林萬吾は本作品について、「乗合舟という意味でいろいろな性格やら境遇やらを寄せ集めた人事趣味を拵えよう」と述べた。(「作家の談渡舟」『美術新報』9巻1号1909年)
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