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公開日:2018年5月1日

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平成30年4月19日 答申第528号(香川県情報公開審査会答申)

平成30年4月19日(答申第528号)

答申

第1 香川県情報公開審査会(以下「審査会」という。)の結論

香川県教育委員会(以下「実施機関」という。)が行った一部公開決定(以下「本件処分」という。)により非公開とした別表1記載の部分のうち、「当審査会の判断」に掲げる内容に従い、公開すべきである。

第2 審査請求に至る経緯

1 行政文書の公開請求

審査請求人は、平成29年7月4日付けで、香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号。以下「条例」という。)第5条の規定により、実施機関に対し、次の内容の公開請求を行った。

  • (a)香川県内の公立小・中・高・養護・盲学校に関する体罰事故報告書(加害教師の反省文、顛末書、診断書、事情聴取記録、その他一切の添付文書等を含む)(平成24年度分)
  • (b)公立学校の教職員に係る人事行政状況調査(文部科学省)調査票【要式1-3】懲戒処分等3(体罰に係るもの)(平成24年度分)

2 実施機関の決定

  • (1)実施機関は公開請求のあった行政文書として、次の行政文書を特定し、別表2の「公開しない部分」が「公開しない理由」に該当するとして、平成29年7月14日付けで本件処分を行い、審査請求人に通知した。
    • (a)香川県内の公立小・中・高・養護・盲学校の体罰事案について香川県教育委員会に提出された学校事故報告書(添付文書等を含む。)(平成24年度全23件分)(以下「本件行政文書」という。)
      また、実施機関は公開請求のあった行政文書として、次の行政文書を特定し、平成29年7月14日付けで行政文書公開決定を行い、審査請求人に通知した。
    • (b)公立学校の教職員に係る人事行政状況調査(文部科学省)調査票【要式1-3】懲戒処分等3(体罰に係るもの)(平成24年度分)

3 審査請求

審査請求人は、本件処分を不服として、平成29年7月29日付けで、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第2条の規定により実施機関に対して審査請求を行った。

第3 審査請求の内容

1 審査請求の趣旨

「実施機関の行った一部公開決定処分を取消し、変更するとの決定を求める。」というものである。

2 審査請求の理由

審査請求書において主張している理由は、次のとおりである。

今回一部公開を受けた行政文書の部分公開範囲は、香川県情報公開条例(本件条例とする)、関連する平成18年12月22日大阪高等裁判所判決(平成18年行コ第26号事件、同第68号事件(判例タイムズNo.1254(2008年1月15日)151頁)(確定))、平成23年2月2日大阪高等裁判所判決(平成22年行コ第153号事件(確定))等に照らし、違法な非公開部分を含むものである。
まず、上記諸判決においては、学校において教師が行った体罰は、加害教師に関しては、「職務上の遂行に係る情報」であると認定され、「通常他人に知られたくないと思われるもの」や「公にしないことが正当であると認められるもの」といった公務員のプライバシーではないとされている。これらの判決により、プライバシー型の条例を有する兵庫県、神戸市その他関西の多くの自治体の教育委員会では、体罰事故報告書の学校名、校長名、加害教師名等は原則公開とされている。非公開が認められているのは、児童生徒の氏名、関係者の住所等ごく一部に過ぎない。
次に、本件条例7条1号では、「個人に関する情報…であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」を「非公開情報」としているが、さらに「ただし、次に掲げる情報を除く。」として、その例外を規定している。そのウは、「公務員等(括弧内略)の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員等の職の名称その他職務上の地位を表す名称及び氏名」とし、これらの情報は公開すべきものと規定する。換言すれば、公務員の職務遂行情報については、「当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」については、「個人に関する情報…であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」であっても公開せねばならないはずである。また特定個人を識別できないものであれば、そもそも本件条例7条1号に該当しない。また同号は、「公にすることにより当該個人の権利利益を不当に害するおそれがあるもの及びそのおそれがあるものとして実施機関が定める職にある公務員の氏名を除く。」とするが、上記判例は、体罰事故情報は、当該教員については保護されるプライバシー情報ではないとしているのであるから、それは「公にすることにより、当該個人の権利利益を不当に害するおそれがあるもの及びそのおそれがある」ものとはいえないと裁判所は判示しているというべきである。
なお、最高裁判所はじめ各種の判決・答申においては、プライバシー型の規定を採用している地方公共団体の条例の「特定の個人を識別できる情報のうち、他人に知られたくないもの」と情報公開法その他の「特定の個人を識別できる情報から、ただし書イ、ロ、ハを除いたもの」等の個人識別型とで個別の情報の取扱いに実質的に大きな差異をつけてはいない。個人識別型の規定においても、公務員の氏名等の公開が争われた判決の例としては、公務員の職務の遂行に関する情報は「個人に関する情報」に該当しないとした例〔広島県条例関係〕として、次のものがある。

「本件条例は、県民の県政に対する理解と信頼を深め、県政への参加をより一層促進し、もって活力に満ちた公正で開かれた県政を推進することを目的とし、そのために県民の公文書の公開を求める権利を明らかにするとともに(1条)、実施機関に対し、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしつつも、県民の公文書の公開を求める権利を十分に尊重して本件条例を解釈適用する責務を負わせている(3条)。このような本件条例の目的、趣旨からすれば、本件条例が、広島県の公務員の職務の遂行に関する情報が記録された公文書について、公務員個人の社会的活動としての側面があることを理由に、非公開とすることができるとしているとは解し難い。また、国又は他の地方公共団体の公務員の職務の遂行に関する情報についても、国又は当該地方公共団体において同様の責務を負うべき関係にあることから、上記目的を達成するため、広島県の公務員の職務の遂行に関する情報と同様に公開されてしかるべきものと取り扱うというのが本件条例の趣旨であると解される。したがって、国及び地方公共団体の公務員の職務の遂行に関する情報は、公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き、公務員個人が本件条例9条2号にいう「個人」に当たることを理由に同号の非公開情報に当たるとはいえないと解するのが相当である。」(最高判平15年12月18日)

その他、最高判平15年10月24日〔岐阜県条例関係〕、最高判平15年11月21日〔新潟県条例関係〕など同様の判決が続いている。
今回一部公開を受けた行政文書の部分公開範囲は、こうした個人識別情報を広く超え、教育委員会名、学校名、事故発生日時、事故状況時の各種情報、学年、体罰の怪我の程度等々、そもそもおよそ個人識別しえないと判例が認めただけでなく、常識的に見ても広範に過ぎる非公開が実施されており、全く不当である。法治行政のもとにある行政機関として、関連判例を精査し、情報公開の実務の現在の水準を踏まえて公開・非公開の判断はなされるべきところ、そうした形跡は全くみられない。
なお、非公開理由としては、他に本件条例7条4号該当もいわれているが、これらも上記判決ほか関連判決の中およびそこに至る中で争われ、全て否定されてきているものである。
また本件情報公開請求においては、公文書一件あたり200円もの手数料を取られ、わずか24件の情報公開のために、手数料だけで4800円も請求された。このような高額の手数料請求は他の自治体にも例がなく、手数料を取る自治体自体、都道府県・政令市においては他に東京都のみである。このような高額手数料は、情報公開請求を実質的に禁圧するに等しく、極めて立ち遅れた制度であるといわざるをえない。本件条例は、前文で「地方分権が進展する中で、行政の透明性を確保し、県民の県政への参加をより一層推進することが求められており、県の保有する情報を広く県民に公開することは、地方自治の本旨にのっとった県政を推進していくための基礎的な条件となっている。これを踏まえ、県民の行政文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、県の保有する情報の提供に関する施策の充実を図ることにより、公正で民主的な県政を推進していかなければならない。県は、県民の「知る権利」がこのような情報公開の制度化に大きな役割を果たしてきたことを認識し、県民の情報公開に対する期待にこたえ、県民がその知ろうとする県の保有する情報を得られるよう、情報公開を一層進めるため、ここに、この条例を制定する。」と知る権利について定める。また1条で「この条例は、県民の行政文書の公開を請求する権利につき定めること等により、実施機関の保有する情報の一層の公開を図り、県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的とする。」とする。さらに3条でも「実施機関は、県民の行政文書の公開を請求する権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、及び運用するものとする。」とする。これほど高額の手数料の徴収が、こうした規定と整合的なものであるとはいえない。仮に手数料自体は認めるとしても、その額は下げられるべきであり、また行政文書一件ごとではなく、申請一件ごとなどとされるべきものと考える。あまりにひどい制度ゆえ、何らかの判断があって然るべきと考える。
ゆえに、本件公文書の部分公開範囲は、本件条例、関連する所判決等に照らし、違法な非公開部分を大量に含むものであり、本件決定は取り消されるべきである。

3 反論書による主張

次のとおりである。

弁明書の非公開理由は、結局、香川県情報公開条例7条1号、4号に該当し、「特定個人を識別でき、個人の権利利益を害するおそれがある」、「公正かつ円滑な人事の確保に支障をきたす」等と漫然とのべ、過去の情報公開審査会答申に触れ、内部の運用指針である「情報公開条例の趣旨及び解釈」(以下「趣旨及び解釈」とする)を引用するのみで、関連判例を吟味した上で条例の解釈を展開するものではない。そしてその非公開部分の多くは、関連判例を前提すれば、公開されるべきものであること、審査請求の理由ですでに述べたところであるにも関わらず、一切反論がなされていない。よってそもそも弁明になっていない。
三権分立、法治主義原則のもと、一定の条例解釈や法的争点について判断が示されている場合、第一に行政が従うべきは内部の運用指針でも、審査会答申でもなく、司法判断であることは今更述べるまでもない常識のはずである。そもそも弁明書で示されている香川県情報公開審査会答申は、審査請求書で示した近年の関連司法判断よりも古いものであり、現在では関連司法判断に違背する限りにおいて、それらは維持できないはずである。また内部の運用指針についても、一般的に司法判断より法源性に劣る点はもちろんのこと、そこで示される指針はあくまで一般論であって、個別事件(本件では体罰事故報告書の部分公開処分)をふまえた司法判断は、まさに体罰事故報告書という特定の文書においての情報公開の法解釈が示されているものであるから、そこでの判断が優先することは明らかである。
であるから実施機関がすべき弁明は、こうした原則をふまえた上で、関連判決の判断がなぜ本件文書では適用されないのか、あるいは自らの非公開処分が関連判決の判断に従ったものであるかを、説得的に論じ示すことである。しかるにそうした弁明は一切存在しない。以下論点ごとに簡単に反論する。

1 条例第7条第1号非該当

  • (1)児童生徒の特定について
    弁明書では、「趣旨及び解釈」を引き、個人特定のための「他の情報」は「何人でも入手可能な情報を基準として考えることは適切とはいえず」としていることをもって、自己の判断が正当としているが、関連司法判断ではまさに体罰事故報告書においては一貫して「何人でも入手可能な情報を基準として考えることが適切」とされているのである。よって正当とはいえない。
  • (2)加害教員のプライバシー該当性について
    弁論書では、加害教員が懲戒処分を受けたことは保護されるべきプライバシーであるところ、事故報告書で氏名を公開すると、本人が懲戒処分を受けたことも明らかになるので非公開だとする。いうまでもなくこの点も司法判断で論点とされたものであり、それが明らかになることの是非は担当裁判官も十分理解した上で教員名まで公開せよと判断しているのである。
    そもそも体罰事故報告書自体には懲戒処分の内容は記されておらず、別の文書において懲戒処分の内容を公開しているのは実施機関の判断なのであるから、体罰事故報告書の氏名公開それ自体がプライバシー侵害にはならないこと、よって本件処分においてそれを理由に条例7条1号をもちだすことが不当であることはいうまでもない。関連司法判断もそのような考えに基づいている。

2 条例第7条第4号非該当

非公開理由としては、他に本件条例7条4号該当もいわれているが、これらも上記判決ほか関連判決の中およびそこに至る中で争われ、全て否定されてきているものである。そもそもここでいう「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」の解釈からして、「客観的判断」や支障の程度の「実質性」、「おそれ」の「抽象的な可能性では足りず、法的保護に値する蓋然性が要求される」ことなどに照らし、主観的形式的抽象的に主張されているにすぎず、認められない。そもそも個人情報該当性以外のこうした論点については、本件公文書では、他自治体の審査会答申でも、司法判断でも、否定されてきており、それらを参照すれば、無理筋の主張であるとすでに判断されていることも明らかである。

第4 実施機関の説明の要旨

弁明書による説明は以下のとおりである。

1 処分の理由について

  • (1)香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号。以下「条例」という。)第7条第1号の該当性について
    本件行政文書は、教員及び関係者の所属、役職名、氏名、年齢、性別、住所、関係する年月日、市町名、市町教育委員会名、被害の程度等が記載されており、これらの情報は、条例7条第1号本文に規定するところの、特定の個人を識別することができる情報又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報である。
  • (2)条例第7条第4号の該当性について
    本件行政文書には、関係者しか知りえない当該事故に関する詳細な情報が記載されており、公開することにより関係者との信頼関係が損なわれ、今後の学校教育活動に支障をきたすおそれが生じることから、条例第7条4号に規定するところの、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれのある情報である。
    なお、学校事故報告書については、過去に香川県情報公開審査会において審査され、審査会答申第226号(平成15年7月10日)、審査会答申第227号(平成15年7月10日)及び審査会答申第369号(平成18年12月26日)により、条例第7条第4号に該当すると判断されているものである。

2 審査請求の理由に対する反論について

  • (1)条例第7条第1号該当性(被害児童生徒に関する情報)
    条例第7条第1号本文では、「個人に関する情報(略)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(略)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」を非公開情報としている。
    この点に関して、条例の所管課が作成している「情報公開条例の趣旨及び解釈」では、条例第7条第1号の「解釈」4において、「「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」とは、公開請求に係る情報から直接特定の個人を識別することはできないが、既に公になっている又は入手可能な他の情報と当該情報とを組合わせることによって、特定の個人を識別することができることとなる情報をいう。なお、「他の情報」については、何人でも入手可能な情報を基準として考えることは適切とはいえず、慎重に判断することが必要である。」という判断を示している。
    したがって、本件一部公開で非公開とした教育委員会名、学校名、事故発生日時、事故状況時の各種情報、学年、体罰の怪我の程度等の情報については、これらの情報を知ることにより、「他の情報」と一体として特定の個人(被害児童生徒)を識別することが可能となる情報と考えられるため、これを公開とすることは、条例第7条第1号の規定に反すると解せられる。
  • (2)条例第7条第1号該当性(加害教員に関する情報)
    平成18年12月22日大阪高等裁判所判決(平成18年(行コ)第26号事件、同第68号事件)においては、「加害教員その他の教職員が懲戒処分等を受けたことは、公務遂行等に関して非違行為があったということを示すにとどまらず、公務員の立場を離れた個人としての評価をも低下させる性質を有する情報というべきであるから、私事に関する情報の面を含むものということができ(る)」と判示している。
    この点に関して、仮に、教員Aが体罰を行ったことにより懲戒処分等を受けた場合において、当該体罰に係る学校事故報告書の公開請求に対して教員Aの所属(学校名)や氏名を公開したときは、その後又は同時に、体罰で懲戒処分等を行った事案に係る文書の公開請求があったときには、たとえ後者の公開請求に対する一部公開で教員Aの所属する所属(学校名)や氏名を非公開としたとしても、両者で公開された情報を照合してみれば、教員Aが懲戒処分等を受けたという情報となる。
    したがって、体罰に係る学校事故報告書の公開請求における教員の所属(学校名)や氏名の公開については、既にこれらが公表されているような場合を除き、個人の権利利益の保護の観点から行わないことが条例第7条第1号の規定に適合するものと考えられる。
  • (3)条例第7条第4号該当性
    「1 処分の理由について」に記載したとおりである。

第5 審査会の判断

1 判断における基本的な考え方について

条例は、その第1条にあるように、県民の行政文書の公開を求める権利を具体的に明らかにするとともに、行政文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、県の保有する情報の一層の公開を図り、県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的として制定されたものであり、審査に当たっては、これらの趣旨を十分に尊重し、判断するものである。
また、この判断に当たっては、判例ないし裁判例における判断等も十分に考慮しなければならないものである。

2 本件行政文書の内容について

本件行政文書は、県内の公立小学校、中学校又は高等学校で発生した体罰事案について香川県教育委員会に提出された報告書(平成24年度全23件分)であり、その構成は次のとおりである。

  • (1)文書1~文書12(公立小中学校関係文書)について
    • ア 関係学校長から関係市町教育委員会教育長あての学校事故報告書
    • イ 関係市町教育委員会教育長から香川県教育委員会教育長あての学校事故報告書の副申書
  • (2)文書13~文書23(県立高等学校関係文書)について
    • ア 関係学校長から香川県教育委員会教育長あての学校事故報告書

3 本件処分について

  • (1)非公開情報該当性について
    次に掲げる各非公開条項についての基本的な考え方に基づき、判断する。
    • ア 条例第7条第1号の該当性について
      • (ア)本号は、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の立場から、個人に関する情報は最大限に保護されることが必要であるため、特定の個人が識別され得る情報は、原則として非公開とすることを定めたものである。また、我が国において、プライバシーの具体的な内容が法的にも社会通念上も必ずしも明確ではなく、その内容や範囲は事項ごと、各個人によって異なり得る。そこで、本条例は、プライバシーであるか否か不明確な情報も含めて、特定の個人が識別され得る情報を包括的に非公開として保護することとした。加えて、個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものについても、非公開とすることを定めたものである。しかし、これらの個人に関する情報には、個人の権利利益を侵害しないと考えられ、非公開とする必要のない情報及び公開する公益上の必要があると認められる情報も含まれているので、これらの情報を本号ただし書で規定し、公開することとしている。
      • (イ)本号本文にいう「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」とは、公開請求に係る情報から直接特定の個人を識別することはできないが、既に公になっている又は入手可能な他の情報と組合わせることによって、特定の個人を識別することができることとなる情報をいう。
        また本号において、個人情報を非公開情報と定める趣旨は、県政情報の公開という公益と個人の権利利益保護の両立にあるところ、「他の情報」について、「いかなる場合においても何人でも入手可能な情報を基準とする」ことは、個人の権利利益の保護の観点から適切とはいえない場合が考えられることから、妥当でない。条例は、個人の権利利益など、保護されるべき法益を侵害しない限りにおいて、情報公開請求権を認めるものである。そして、行政文書の性質によって、個人が識別された場合に生じる権利利益侵害の程度は異なることから、個人の権利利益保護の必要性の程度も異なるといえる。したがって、どのような情報が「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」に該当するか否かは、行政文書の性質から導かれる権利利益侵害の程度により、個別具体的に判断すべきである。
        本件行政文書は、特定の児童生徒が体罰被害を受けたという、通常他人に知られたくない情報が含まれている文書である。かかる情報は、プライバシー性の非常に強い情報であり、このような情報と特定の個人とが関連付けられた場合、当該個人の権利利益を大きく侵害することになりかねない。このような場合に、当該児童生徒と特別な関わりのない一般人が、情報公開制度によって公開された情報を手掛かりとして、当該児童生徒の特定に至る可能性が相当程度認められる場合、当該児童生徒の権利利益侵害の蓋然性が法的保護に値するほどに生じたと認めることができる。したがって、被害児童生徒の特定につながる情報については、一般人が通常考えられる程度の調査を行うことにより得られる情報との照合の結果、特定の個人を識別できる可能性が相当程度認められる場合に限り、非開示とすべきである。他方で、被害児童生徒の特定につながる情報以外の情報については、一般人が通常入手し、又は入手し得る情報との照合の結果、特定の個人を識別することが相当程度の確実性をもって可能と認められる場合に限り、非開示とすべきである。
      • (ウ)本号本文にいう「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とは、個人が識別されなくとも、その情報の第三者への公開が個人の人格権を侵害するおそれがあるもの、又は、財産権その他の個人の正当な利益を害するおそれがあるものなどをいう。
      • (エ)本号ただし書ウ括弧書にいう「公にすることにより、当該個人の権利利益を不当に害するおそれがあるもの」とは、公務員等の職務の遂行に係る当該個人の氏名について、公にすることにより、個人の私生活上の権利利益が受忍すべき限度を超えて害されるおそれがある場合等をいう。イ 条例第7条第4号の該当性について本号は、県の機関等が行う事務又は事業の目的達成又は適正な執行の確保の観点から、当該事務又は事業に関する情報の中で、当該事務又は事業の性質、目的等からみて、公開することにより、将来の当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報については、非公開とすることを定めている。
        そして、「適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」に該当するかどうかを判断するに当たっては、「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものが要求され、「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性では十分とはいえないものである。
  • (2)本件行政文書の非公開部分に対する具体的判断
    • ア 条例第7条第1号該当性について
      • (ア) 学校名、校長及び教頭の氏名及び公印の印影、市町教育委員会の名称及び市町名、文書番号並びに市町教育委員会教育長の氏名及び公印の印影について
        • (i)実施機関は、本件行政文書において、学校名を公開しても直接被害児童生徒である特定の個人を識別することができないが、学校名が公開されると、被害児童生徒の所属する学校が明らかになり、ひいては被害児童生徒の特定につながることから、学校名は条例第7条第1号本文に該当する情報であると判断したと認められる。また、校長及び教頭の氏名及び公印の印影、市町教育委員会の名称及び市町名、文書番号並びに市町教育委員会教育長の氏名及び公印の印影についても、公開すれば学校名が明らかになり、学校名を公開した場合と同様の結果となることから、これらの情報も条例第7条第1号本文に該当する情報であると判断したと認められる。そこで、これらの情報が条例7条1号本文にいう、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」に該当するかどうか、以下検討する。
          学校名が明らかになった場合、被害児童生徒がどこの学校に通っているかの特定が可能となることから、学校名は被害児童生徒の特定につながる情報である。したがって、学校名について、一般人が相当程度の調査を行うことにより得られる情報との照合の結果、特定の個人を識別できることが相当程度の確実性をもって可能と認められる場合に限り、非開示とすべきである。学校名が公開されれば、本件行政文書に記載されている児童生徒の所属する学校が判明するのであるから、その限りにおいて個人の特定が可能となり得る情報であることは否定できない。しかし、所属する学校が判明しても、そこに通う児童生徒は多数存在するのであり、一般人が相当な調査をしたとしても、特定の個人が識別できるものではない。そうすると、学校名は、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」とはいえない。校長及び教頭の氏名及び公印の印影、市町教育委員会の名称及び市町名、文書番号並びに市町教育委員会教育長の氏名及び公印の印影についても同様である。
        • (ii)また、これらの情報を公開したとしても、個人の権利利益を害するおそれがあるとは認められない。
        • (iii)したがって、学校名、校長及び教頭の氏名及び公印の印影、市町教育委員会の名称及び市町名、文書番号並びに市町教育委員会教育長の氏名及び公印の印影は、条例第7条第1号本文に該当する情報とはいえない。
        • (iv)校長及び教頭の氏名について、校長及び教頭の氏名を公開しても、校長や教頭の権利利益を不当に害するおそれは認められない。よって、条例第7条第1号ただし書ウ括弧書にも該当しない。
      • (イ)事故発生場所の一般教室名等及び児童生徒の所属するクラス、部活動等について
        • (i)実施機関は、本件行政文書において、事故発生場所の一般教室名等や児童生徒の所属するクラス、部活動等が明らかとなると、被害児童生徒の所属するクラスや部活動等が明らかになり、ひいては被害児童生徒の特定につながることから、事故発生場所の一般教室名等及び児童生徒の所属するクラス、部活動等は条例第7条第1号本文に該当する情報であると判断したと認められる。そこで、これらの情報が条例第7条第1号本文にいう、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」に該当するかどうか、以下検討する。
          事故発生場所の一般教室名等及び児童生徒の所属するクラス、部活動等が明らかとなった場合、被害児童生徒が所属するクラスや部活動等が特定されるから、これらの情報は被害児童生徒の特定につながる情報であるといえる。学校名等が公開されている場合、事故発生場所の一般教室名等及び児童生徒の所属するクラス、部活動等が明らかとなれば、本件行政文書記載の児童生徒が相当程度限定される。そうすると、一般人が調査をした場合、被害児童生徒の特定の可能性が相当程度あるといえる。したがって、事故発生場所の一般教室名等及び児童生徒の所属するクラス、部活動等については、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」といえる。
        • (ii)したがって、事故発生場所の一般教室名等及び児童生徒の所属するクラス、部活動等は、条例第7条第1号本文に該当する情報である。
      • (ウ)場所の特定につながる情報(学校名及び一般教室名等を除く。以下同じ。)について
        • (i)実施機関は、場所の特定につながる情報についても被害児童生徒の特定につながるとして、当該情報も条例第7条第1号本文に該当する情報であると判断したと認められる。場所の特定につながる情報は、事故当時に被害児童生徒がその場所にいたことを示すものであるから、その限りにおいて被害児童生徒の特定につながる情報であるといえる。しかし、不特定多数者が出入りする場所や、当該学校の児童生徒全員が利用可能な場所についての情報が明らかとなったとしても、その場所の利用者は多数存在する。そのため、かかる情報をもとに一般人が相当な調査をしたとしても、特定の個人が識別できるものではないといえる。
          よって、場所の特定につながる情報は「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」とはいえない。
        • (ii)また、この情報を公開したとしても、個人の権利利益を害するおそれがあるとは認められない。
        • (iii)したがって、場所の特定につながる情報は、条例第7条第1号本文に該当する情報とはいえない。
      • (エ)校舎配置図について
        • (i)実施機関は、校舎配置図についても、学校及び事故発生場所等が特定されることから、ひいては被害児童生徒の特定につながるとして、かかる情報は条例第7条第1号本文に該当する情報であると判断したと認められる。
        • (ii)しかし、前述のとおり、学校名は条例第7条第1号本文に該当する情報とはいえないのであるから、学校名が明らかとなるにすぎない本件行政文書3及び6添付の校舎配置図は条例第7条第1号本文に該当する情報とはいえない。また、本件行政文書8及び12添付の校舎配置図には、場所の特定につながる情報が含まれているが、かかる情報についても前述のとおり条例第7条第1号本文に該当する情報とはいえない。他方、本件行政文書5及び10添付の校舎配置図は、一般教室名等の情報が記載されており、条例第7条第1号本文に該当する情報を含むものであるといえる。
        • (iii)なお付言するに、本件行政文書3、5、6、8、10及び12には校舎配置図が添付されているところ、実施機関はこれを非公開とし、該当ページの写しの交付を行っていない。また、一部公開決定通知書の公開しない部分欄において、校舎配置図など学校の特定につながる部分との記載はあるものの、どの学校事故報告書に添付されているものかの記載は存在しない。しかし、これでは請求者がどの学校事故報告書に校舎配置図が添付されていたかの情報を知ることができない。そして、校舎配置図が添付されていたという情報は、条例第7条各号に該当する情報でないことは明らかである。本件行政文書3、5、8及び10に添付されている校舎配置図記載のページには、校舎配置図であることを示す標題と、具体的な図面の記載が認められる。このうち、標題は公開したとしても、条例第7条各号に該当するおそれは認められない。したがって、実施機関は、校舎配置図が非公開であると判断した場合においても、当該校舎配置図のページを交付しないのではなく、具体的な図面部分のみを黒塗りし、当該ページの写しを交付すべきであった。また、本件行政文書6及び12に添付されている校舎配置図には表題の記載がないことから、当該校舎配置図のページを交付しないことが認められるが、その場合であっても、校舎配置図がどの行政文書に添付されているかにつき、一部公開決定通知書に記載すべきであった。
      • (オ)日時、曜日及び校時等、事故発生時の状況並びに他の児童生徒の行動について
        • (i)実施機関は、本件行政文書において、日時、曜日及び校時等を公開することで、他の情報と照合することにより、被害児童生徒の特定につながることから、日時、曜日及び校時等は、条例第7条第1号本文に該当する情報であると判断したと認められる。また、事故発生時の状況及び他の児童生徒の行動に関する情報についても、日時、曜日及び校時等を推認できる情報であると認められることから、同様の判断をしたと認められる。そこで、これらの情報が条例第7条第1号本文にいう、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」に該当するかどうか、以下検討する。
          日時、曜日及び校時等が明らかになった場合、被害児童生徒がいつ被害にあったかの特定が可能となることから、日時、曜日及び校時等は被害児童生徒の特定につながる情報である。したがって、日時、曜日及び校時等について、一般人が相当程度の調査を行うことにより得られる情報との照合の結果、特定の個人を識別できることが相当程度の確実性をもって可能と認められる場合に限り、非開示とすべきである。日時、曜日及び校時等が明らかとなったとしても、それだけをもって個人の特定に至るわけではない。しかし、学校名などの情報とともに日時、曜日及び校時等が明らかとなれば、日時を特定した上で、当該学校周辺において聞き取り調査を行うなど、当該学校事故の調査を容易に行うことができることとなる。そうすると、被害児童生徒ないし被害児童生徒に近しい関係の者との接触の可能性は相当程度認められる。そして、接触した学校関係者に対し、日時、曜日及び校時等を指定して調査を行うことで、有意な情報を入手できる相当程度の可能性が認められる。その結果、得られた有意情報との照合により、被害児童生徒の特定の可能性が相当程度あるといえる。よって、日時、曜日及び校時等は、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」と認められる。事故発生時の状況及び他の児童生徒の行動についても同様である。
        • (ii)したがって、日時、曜日及び校時、事故発生時の状況並びに他の児童生徒の行動は、条例第7条第1号本文に該当する情報である。
      • (カ)教員の担当するクラス、教科、部活動等(以下「教員の所属等」という。)について
        • (i)実施機関は、本件行政文書において、教員の所属等が明らかとなると、被害児童生徒の所属するクラスや部活動等が明らかになり、ひいては被害児童生徒の特定につながることから、教員の所属等は条例第7条第1号本文に該当する情報であると判断したと認められる。
          確かに、本件行政文書10、15、16、17、18及び19には、被害児童生徒の所属するクラスや部活動等を推認させるような教員の所属等の記載がある部分が認められる。そうすると、かかる情報により本件行政文書記載の児童生徒が相当程度限定されることとなり、一般人が調査をした場合、被害児童生徒の特定の可能性が相当程度あるといえる。したがって、このような教員の所属等は「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」といえる。
          しかし、本件行政文書12及び13に記載されている情報は、被害児童生徒の所属するクラスが明らかとなる情報とは認められない。また、本件行政文書18においても、被害児童生徒の所属するクラス等の特定に至らない情報が記載されていることが認められる。かかる情報が明らかになったとしても、そのことにより、被害児童生徒の特定につながるとはいえない。したがって、被害児童生徒の特定につながらない教員の所属等は、一般人が通常入手し、又は入手し得る情報との照合の結果、特定の個人を識別することが相当程度の確実性をもって可能と認められる場合に限り、非開示とすべきである。被害児童生徒の特定につながらない教員の所属等が明らかとなったとしても、一般人が入手可能な情報から、特定の個人を識別することができるとは通常認められず、本件において個人が特定されうる特殊の事情は認められない。したがって、被害児童生徒の特定につながらない教員の所属等は「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」とはいえない。
        • (ii)また、本件において、被害児童生徒の特定につながらない教員の所属等を公開したとしても、個人の権利利益を害するおそれがあるとは認められない。
        • (iii)したがって、被害児童生徒の特定につながらない教員の所属等は条例第7条第1号本文に該当する情報とはいえず、それ以外の教員の所属等は条例第7条第1号本文に該当する情報である。
      • (キ)加害行為及びけがの箇所・程度について
        • (i)実施機関は、本件行政文書において、加害行為及びけがの箇所・程度が明らかとなると、被害児童生徒のけがの状態等が明らかになり、ひいては被害児童生徒の特定につながることから、加害行為及びけがの箇所・程度は条例第7条第1号本文に該当する情報であると判断したと認められる。加害行為及びけがの箇所・程度が明らかになった場合、被害児童生徒の負傷経緯や負傷箇所が明らかとなるのであるから、被害児童生徒の特定につながる情報である。そして、本件行政文書に記載されている加害行為を受け、負傷した児童生徒は、各事案につき1人であることから、一般人が調査をすれば、被害児童生徒の特定の可能性が相当程度あるといえる。したがって、加害行為及びけがの箇所・程度は、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」といえる。
        • (ii)したがって、加害行為及びけがの内容は、条例第7条第1号本文に該当する情報である。
      • (ク)保護者の行動について
        • (i)行政文書3の事故の影響欄には、被害児童生徒の保護者の行動についての記載があることが認められる。実施機関は、本件行政文書において、被害児童生徒の保護者の行動が明らかとなると、被害児童生徒の特定につながることから、保護者の行動は条例第7条第1号本文に該当する情報であると判断したと認められる。
          本件における保護者の行動は本件のみに限られる特異なものではない。かかる情報が明らかになったとしても、そのことにより、被害児童生徒の特定につながるとはいえない。したがって、保護者の行動は、一般人が通常入手し、又は入手し得る情報との照合の結果、特定の個人を識別することが相当程度の確実性をもって可能と認められる場合に限り、非開示とすべきである。保護者の行動が明らかとなったとしても、一般人が入手可能な情報から、特定の個人を識別することができるとは通常認められず、本件において個人が特定されうる特殊の事情は認められない。したがって、保護者の行動は「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」とはいえない。
        • (ii)また、本件において、保護者の行動を公開したとしても、個人の権利利益を害するおそれがあるとは認められない。
        • (iii)したがって、保護者の行動は、条例第7条第1号本文に該当する情報とはいえない。
      • (ケ)当事者欄記載部分(児童生徒該当部分)について
        • (i)当事者欄には、被害児童生徒の氏名、住所、年齢、性別、学年、組及び児童生徒という地位並びに被害児童生徒の所属する部活動の記載が認められる。実施機関は、被害児童生徒の特定につながることから、これらの情報は条例第7条第1号本文に該当する情報であると判断したと認められる。
          第一に、被害児童生徒の氏名及び住所は「個人に関する情報」であって、「特定の個人を識別することができるもの」であることが明らかであるから、条例第7条第1号に該当する情報である。
          第二に、行政文書1、7及び22に記載されている性別について、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」といえるか検討する。性別が明らかになると、被害児童生徒の男女の別が特定されるから、これらの情報は被害児童生徒の特定につながる情報であるといえる。もっとも、一般に学校は多数の児童生徒が通うものであり、性別が判明したとしても多数の児童生徒が存在する。そして、本件において性別が明らかとなることにより、該当する児童生徒数が極端に少なくなる学校は認められず、一般人が相当な調査をしたとしても、特定の個人が識別できるものとはいえない。そうすると、性別は、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」とはいえない。
          第三に、学年、組及び年齢について、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」といえるか検討する。学年、組及び年齢は、被害児童生徒の特定につながる情報である。そして、学年、組及び年齢が明らかとなると、被害児童生徒の学年や、より少人数で構成される組が分かることになり、一般人が調査をすることで、被害児童生徒の特定に至る可能性が相当程度認められる。よって、学年、組及び年齢は「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」といえる。
          第四に、児童生徒という地位について検討する。かかる情報は、単に児童生徒の身分を表すものにすぎず、被害児童生徒の特定につながるものとはいえない。また、一般人が入手可能な情報と照合することで個人の特定に至る情報ではない。よって、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」とはいえない。
          最後に、被害児童生徒の所属する部活動については、先述のとおり、被害児童生徒の特定につながる情報である。そして、かかる情報をもとに一般人が調査をした場合、被害児童生徒の特定の可能性が相当程度あるといえる。したがって、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」といえる。
        • (ii)したがって、被害児童生徒の氏名、住所、年齢、学年、組及び児童生徒の所属する部活動は条例第7条第1号本文に該当する情報であり、被害児童生徒の性別及び児童生徒という地位は条例第7条第1号本文に該当する情報とはいえない。
      • (コ)当事者欄記載部分(教員該当部分)及び校長のとった措置欄記載の教員氏名について
        • (i)当事者欄及び校長のとった措置欄には、教員の氏名、住所、年齢、性別及び職名並びに教員の担当する部活動の記載が認められる。実施機関は、これらの情報を公開することが、被害児童生徒の特定につながること、及び公開することが条例第7条第1号ただし書ウ括弧書にいう「公にすることにより、当該個人の権利利益を不当に害するおそれがあるもの」に該当するから、これらの情報は条例第7条第1号本文に該当する情報であると判断したと認められる。
        • (ii)第一に、教員の住所は「個人に関する情報」であって、「特定の個人を識別することができるもの」であることが明らかであり、条例第7条第1号ただし書ウにいう「公務員等…の職務の遂行に係る情報」でもないから、条例第7条第1号に該当する情報である。
        • (iii)第二に、教員の職名について、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」といえるか検討する。職名という情報が明らかになったとしても、そのことにより被害児童生徒の特定につながるとはいえないから、「他の情報」は、一般人が入手可能な情報を基準として考えることが相当である。職名が明らかとなっても、当該職名が特定の個人にしか与えられていないものである場合を除いては、一般人が入手し、又は入手し得る情報から、特定の個人を識別することができるとは認められない。そして、本件行政文書において、特定の個人にしか与えられていないであろう職名は認められない。したがって、職名は「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」とはいえない。また、職名を公開したとしても、個人の権利利益を害するおそれがあるとは認められない。
        • (iv)第三に、教員の担当する部活動について検討する。かかる情報は、本件文書記載の事案においては、被害児童生徒の所属する部活動の特定につながる情報である。そして、先述のとおり、かかる情報は「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」と認められる。
        • (v)第四に、教員の氏名について検討する。当該情報が被害児童生徒との関係で、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」といえるか検討する。教員の氏名が公開されても、それだけをもって被害児童生徒の特定につながるとはいえない。また、当審査会は、本答申4(2)ア(カ)において、教員と児童生徒とを関連付ける情報である、教員の所属等の情報について非公開が妥当であると判断しており、このことからも被害児童生徒の特定にはつながらないとも考えられる。しかし、教員の氏名が公開されると、当該教員がどのような教科や部活動を担当していたかを容易に調査することができるのであり、ひいては被害児童の特定につながることになる。したがって、「他の情報」は、一般人が相当程度の調査を行うことにより得られる情報との照合の結果、特定の個人を識別できることが相当程度の確実性をもって可能と認められる場合に限り、非開示とすべきである。そして、教員の氏名から得られた情報を手掛かりとして、接触した学校関係者に対し、教員の氏名等を指定して調査を行うことで、有意な情報を入手できる相当程度の可能性が認められる。その結果、得られた有意情報との照合により、被害児童生徒の特定の可能性が相当程度あるといえる。よって、教員の氏名は、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」と認められる。
        • (vi)最後に、教員の年齢及び性別について、「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」といえるか検討する。本件行政文書において、教員の年齢及び性別という情報が明らかになったとしても、そこから教員氏名が特定されるとは認められず、そのことにより被害児童生徒の特定につながるとはいえない。したがって、「他の情報」は、一般人が入手可能な情報を基準として考えることが相当である。年齢及び性別が明らかとなっても、一般人が入手可能な情報から、特定の個人を識別することができるとは認められない。したがって、年齢及び性別は「他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるもの」とはいえない。また、年齢及び性別を公開したとしても、個人の権利利益を害するおそれがあるとは認められない。
        • (vii)以上のことから、教員の氏名、住所及び教員の担当する部活動は条例第7条第1号に該当する情報であり、教員の職名、年齢及び性別は条例第7条第1号に該当する情報とはいえない。
    • イ 条例第7条第4号該当性について本件行政文書の非公開部分のうち、条例第7条第1号に該当しなかった部分につき、条例第7条第4号該当性を検討する。
      • (ア)「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」について
        当審査会の答申第369号において、「「学校事故報告書に係る情報公開請求について」のうち氏名、生年月日等が記載された部分」につき、次のように結論づけている。『学校事故報告書については、既に述べたように、教職員及び児童・生徒の関係する事件の内容が詳しく記載されており、実施機関が既に公開した部分により、事件の概要が既に公にされていることから、非公開部分を公開することとなれば、事件の具体的な内容が分かることとなり、学校と事件の関係者、事件の関係者以外の児童・生徒及び保護者等との信頼関係が損なわれ、今後の学校教育活動に支障を及ぼすおそれがある。また、関係者が報告を行うことを躊躇したり、学校、市町教育委員会及び実施機関の調査に対する十分な協力が得られなくなったりするなど、当該事件に関する正確な事実の把握を困難にすることにより、実施機関における懲戒処分等の人事管理に関する事務に支障が生じるおそれがある。さらに、当該支障をおそれ、学校からの市町教育委員会に対する報告及び市町教育委員会から実施機関に対する報告が、重要又は異例に属するかどうかの判断が微妙な場合に行われなくなったり、報告内容が簡略化するなど、市町教育委員会及び実施機関における正確な事実の把握が不十分となり、学校事故に係る事実関係を正確に把握して適切な学校の管理運営を確保することが目的である学校事故報告の事務に支障が生じるおそれがあると認められ、実施機関が非公開とした部分については、それぞれ本号に該当すると判断される』。
        この判断は、要するに、学校と事件の関係者、事件の関係者以外の児童・生徒及び保護者等との信頼関係(関係1)、事故当事者である教員と学校、市町教育委員会及び県教育委員会との信頼関係(関係2)並びに市町教育委員会と県教育委員会との信頼関係(関係3)について、実施機関が非公開とした部分を公開することで、これらの信頼関係が崩れ、実施機関が行う事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、条例第7条第4号に該当する、としたものである。以下、これらにつき検討する。
      • (イ)学校と事件の関係者や事件の関係者以外の児童生徒及び保護者等との信頼関係について(関係1について)
        答申第369号では、学校と事件の関係者たる被害児童生徒との関係について、事件の具体的な内容が公開されると、被害児童生徒が、他人に知られると権利利益を侵害されうる情報を第三者に知られることになり、その結果、学校との信頼関係が損なわれる、と判断していると解される。しかし、条例第7条第1号によって適切な判断を行えば、被害者の権利利益を侵害するような情報については非公開となる。そうであれば、被害児童生徒の保護としては条例第7条第1号で足り、別途条例第7条第4号を検討する意義はない。また、学校と事件の関係者以外の児童・生徒及び保護者等との関係について、事件の具体的な内容が公開されることにより、学校に対する信頼関係が損なわれるとは通常考えられず、むしろ事件の経緯について公開することは、信頼関係の回復に資するといえる。そして、本件において信頼関係を損なうといえる特段の事情の存在は認められない。よって、学校と事件の関係者以外の児童生徒及び保護者等との信頼関係が悪化するとはいえない。したがって、関係1が悪化するとは認められない。
      • (ウ)事故当事者である教員と学校、市町教育委員会及び県教育委員会との信頼関係について(関係2について)
        答申第369号では、氏名の公開等が前提となると、当該教員は公開前提でしか事情を話さず、結果として学校事故報告書の目的が達成できなくなる、という意味で関係が悪化するとしている。確かに、事故当事者である教員の氏名や学校名等が公開されることになると、体罰に関する事情聴取に際して、当該教員やその他の関係者が委縮し、公表されると自己に都合の悪いことに関し報告をためらうおそれがあることは否定できない。しかし、当該教員はそもそも加害者として懲戒処分等を受け得る立場であり、自己に不利益な内容を聴取される者である。そうすると、氏名等の公開・非公開に関わらず、当該教員やその関係者が、積極的に聴取に応じるとも想定し難い。氏名等の公開・非公開の別は、それだけをもって当該教員やその他の関係者が委縮し、報告をためらう事態が生じる相当の蓋然性を有するものとはいえない。よって、関係2が悪化するとは認められない。
      • (エ)市町教育委員会と県教育委員会との信頼関係について(関係3について)
        答申第369号では、市町教育委員会が、関係1及び関係2が悪化し、それにより生じる事務事業の支障をおそれ、適切な報告をしなくなるとの判断をしている。しかし、前述のとおり、関係1及び関係2が悪化することはない。したがって、関係3が悪化するとは認められない。
      • (オ)以上のことから、答申第369号にいう条例第7条第4号該当理由は認められず、その他同号に該当し得る理由も認められない。したがって、本件行政文書の公開しない部分における、条例第7条1号に該当しない情報のうち、条例第7条4号に該当する情報は認められない。
      • ウ その他の主張について
        審査請求人は、その他種々の主張をしているが、技術上・手続上の要望であり、いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。
  • (3)結論
    よって、当審査会は「第1 審査会の結論」のとおり判断する。

第6 審査会の審査経過

(省略)

別表1
公開していない部分   当審査会における判断
文書番号 公開
市町教育委員会の名称及び市町名 公開
市町教育委員会教育長の氏名及び公印の印影 公開
学校名   公開
校長の氏名及び公印の印影   公開
事故の態様 事故発生時の状況 非公開
生徒の所属する部活動 非公開
事故発生日時 日時、曜日及び校時等 非公開
事故発生場所 学校名 公開
一般教室名等(児童生徒の学科、学年、組又は所属する部活動に応じ割り振られている場所の名称をいう。以下同じ。) 非公開
場所の特定につながる情報(学校名及び一般教室名等を除く。) 公開
当事者
(氏名、住所、職名、学年、年齢、性別等)
教員該当部分 氏名、住所及び教員の担当する部活動を除き、公開
児童生徒該当部分 性別及び児童生徒の地位の記載を除き、非公開
損害の程度(児童生徒該当部分) 加害行為及びけがの箇所・程度 非公開
事故の概要 事故発生時の状況 非公開
児童生徒の所属するクラス、部活動等 非公開
日時、曜日及び校時等 非公開
場所の特定につながる情報(学校名及び一般教室名等を除く。) 公開
他の児童生徒の行動 非公開
加害行為及びけがの箇所・程度 非公開
市町教育委員会の名称 公開
教員の担当するクラス、教科、部活動等 被害児童生徒の特定につながる情報を除き、公開
事故の影響 保護者の行動 公開
校長のとった措置 市町教育委員会の名称 公開
日時、曜日及び校時 非公開
教頭の氏名 公開
教員の担当するクラス 非公開
生徒の所属する部活動 非公開
校長意見 生徒の所属する部活動 非公開
校舎配置図 一般教室名等の特定につながる情報を除き、公開
別表2
公開しない部分 公開しない理由
公開請求に係る行政文書のうち、次の部分(公開部分を除く。)
  1. 教員及び関係者に係る役職名、氏名、年齢、性別、住所、学年組、被害の程度など、個人が特定され、又は個人の権利利益を害する部分
  2. 関係する年月日、曜日、時刻など、日時が特定される部分
  3. 校舎配置図など学校の特定につながる部分
  4. 事実関係、状況等のうち、個人又は学校の特定につながる部分、個人の権利利益を害することにつながる部分及び任意の協力に基づく調査等に関する情報
  5. 文書番号、校長の所属・氏名・公印の印影、市町教育委員会の名称・文書番号、市町教育委員会教育長の氏名・公印の印影など、学校の特定につながる部分
  • 香川県情報公開条例 第7条1号本文該当
    特定の個人を識別することができる情報又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報であるため。
  • 香川県情報公開条例 第7条4号本文該当
    関係者しか知りえない当該事案に関する調査情報、教職員の人事管理に関する情報等が記載されており、公開することにより、関係者との信頼関係が損なわれ、今後の学校教育活動に支障をきたすおそれがあるとともに、人事管理に関する事務又は将来の同種の事務事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため。

401号~450号 451号~500号 501号~

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