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瀬戸内海に面する浜には塩田があって、塩の町として知られていた坂出市。その昔は塩からい水ばかりで、飲み水に大変こまっていたそうです。
むかしむかし、笠山のふもとにありました笠指(かざし)井戸は、きれいな真水がいくらでも湧いていました。そしてその井戸から水を汲んで売って歩く「水売りさん」がおりました。
ある日のことです。その水売りさんが堀の向こうで、引いていた車を置いて何べんもおじきをしています。ぞうりを片手に持って、しきりにおじきをするので、どうしたのだろうと不思議に思って見ておりますと、やがてその水売りさんは、だんだんと沼の方に近づいて行くではありませんか。
おどろいた宿屋の主人は、あわてて駆けつけ「あぶない、なにしよるんじゃあ」といいながら背中を強くたたきました。
すると水売りさんは、へなへなと座り込んでこういいました。「着物を着たきれいな女の人が、こっちへこい、こっちへこいと手を引っぱって、つれてゆこうとしよったんじゃ」。
水売りさんがふらふらと近寄っていったのは、「とりきの沼」といわれるところで、ここでは同じようにして多くの人が亡くなったと伝えられています。命を助ける水もあれば、命を飲み込んでしまう水もあるのです。
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