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公開日:2007年12月26日

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平成19年12月26日 答申第456号(香川県情報公開審査会答申)

平成19年12月26日(答申第456号)

答申

第1 香川県情報公開審査会(以下「審査会」という。)の結論

香川県知事(以下「実施機関」という。)が行った一部公開決定及び非公開決定(以下「本件処分」という。)は、妥当である。

第2 異議申立てに至る経過

1 行政文書の公開請求

異議申立人は、平成19年4月2日付けで、香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号。以下「条例」という。)第5条の規定により、実施機関に対し、次の内容の行政文書の公開請求(以下「本件請求」という。)を行った。

  • (1)医師法第4条各号等の医師の免許の取消又は医業の停止の要件に該当する可能性のある事案についての厚生労働省からの照会文書及び当該各照会に対する回答文書の各控え。ただし、平成12年度以降のものに限る。
  • (2)保険医療機関の指定の取消及び保険医の登録の取消に関する事実を記載した一切の文書(写しを含む)。ただし、平成12年度以降のものに限る。
  • (3)診療報酬等の不正請求等の疑いにより調査をした際の一切の記録。ただし、平成12年度以降のものに限る。

2 実施機関の決定

実施機関は、公開請求のあった行政文書として、本件請求の(1)及び(2)について別表1に掲げる行政文書をそれぞれ特定し、別表2の「公開しない部分」が「公開しない理由」に該当するとして一部公開決定を、本件請求の(3)について香川社会保険事務局が保管する書類であり香川県の行政文書として存在しないことを理由として非公開決定をそれぞれ行い、平成19年4月26日付けで異議申立人に通知した。

3 異議申立て

異議申立人は、本件処分を不服として、平成19年5月11日付けで行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定により実施機関に対して異議申立てを行った。

第3 異議申立ての内容

1 異議申立ての趣旨

「本件処分を取り消すとの決定を求める」というものである。

2 異議申立ての理由

異議申立書において主張している理由は、おおむね次のとおりである

  • (1)本件処分は、香川県の情報公開条例の解釈適用を誤った違法な処分であり、本件処分を取り消し、全部公開をすべきである。
  • (2)本件「決定通知書」の「公開しない理由」は、香川県の情報公開条例の非公開事由に該当しない。
  • (3)本件「決定通知書」の「公開しない理由」には、適法に処分理由が明示されていないので、香川県行政手続条例第8条に違反し本件処分は無効である。

第4 実施機関の説明の要旨

非公開理由等説明書による説明は、おおむね次のとおりである。

1 条例第7条第1号の該当性について

条例第7条第1号では、個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものを非公開情報と定めている。ただし、本号のただし書に掲げる情報については、非公開情報から除くこととしている。

  • (1)行政文書1、2について
    今回の公開請求のあった文書につき非公開とする部分については、医師及び歯科医師(以下、「医師等」という。)が従事する業務の内容について記載したものではなく、医師等の氏名及び起こした犯罪の状況等について記したものである。また、その性格上、「事業を営む個人の当該事業に関する情報」とも認められない。従って、原則条例第7条第1号本文に該当する。
    以下、詳細について検討する。
    • ア 公文書一部公開決定時点までに処分がなされていない医師等について
      行政処分の対象とされていない以上、条例第7条第1号但書の適用はない。
    • イ 医業停止期間が終了した医師等について
      まず、条例第7条第1号アの該当性であるが、確かに、医師法又は歯科医師法第7条第2項の規定による処分を行う際には、処分の決定時にその概要(当該医師等の住所、氏名、行政処分の内容、事件当時の医療機関名、事件の概要、司法処分等)について、厚生労働省が報道機関への発表を行う(以下、「記者発表」という。)ことが通例となっているが、これはあくまで処分時の公表の慣行でしかなく、これを以って医業停止期間が終了した医師等の情報を公にする慣行ありとはできない。(今年4月から厚生労働省ホームページ上で可能となった医師等の資格確認検索においても、医業停止期間が終了した医師等については、当該処分の内容は提供していない。)
      したがって、医業停止期間が終了した医師等については、条例第7条第1号アの情報には該当しない。
      次に、条例第7条第1号イの該当性であるが、平成18年度までに処分が行われた医師等については、法律上医業停止期間後には自動的に診療行為が認められるため、医業等停止期間を経過した者について、当該処分の情報を公開することの実益がなく、条例第7条第1号イの情報には該当しない。
    • ウ 行政文書一部公開決定時に医業停止期間中であった医師等について
      医業停止処分を受けた者については、その期間中は診療行為をすることが認められていない。今回の請求に関しその氏名、医療機関名、事件名等の一定の情報について一般に対し公開することは、無資格者による診療を防ぐ趣旨から、条例第7条第1号イに該当するものとして、今回公開したところである。
      しかし、記者発表されたものに含まれない情報は、処分庁が公にすることが必要であると認めたものとはいえず、条例第7条第1号イの情報には該当しない。
      なお、条例第7条第1号ウ及びエについては、上記ア~ウのいずれについても、ウに該当する事例がないこと、一連の情報は個人情報でありエには該当しない。従って、上記ウの場合を除き、条例第7条第1号但書の適用はないものと考える。
  • (2)行政文書3について
    条例第7条第1号本文においては、特定の個人が識別され得る情報は、原則非公開と規定している。今回請求に係る行政文書のうち、平成13年5月31日付け、平成13年8月10日付け香川県社会保険事務局による報道機関提供資料の写しは、香川社会保険事務局が「保険医療機関の指定の取消及び保険医の登録の取消」を行った場合は、報道機関に資料提供し、公表している文書である。このため、条例第7条第1号アに該当し、個人情報であっても公開されているところである。
    しかしながら、「保険医療機関の指定の取消及び保険医の登録の取消」を行ってから、その取り消しの日から5年を経過したものは、保険医療機関の指定及び保険医の登録を受けることができる状態になる。すなわち、保険医療機関の指定及び保険医の登録が取消しになったとしても、5年を経過するなど一定の要件を満たしても二度と指定及び登録を認めないとの仕組みとなっていないことを考えると、過去の行政処分を永続的に公開することは適当でないと考えられる。
    指定及び登録の取消となった時点では、当該保険医療機関が保険診療ができなくなったことを周知するなどの必要から、これに関する情報を公表しており、条例第7条第1号ただし書ア該当として、情報公開制度上も公にできる情報であったとしても、本件請求の時点では、条例第7条第1号ただし書アに該当する状態ではないことから、行政文書3のうち、登録取消になった保険医の「氏名」、指定取消になった保険医療機関の「管理者」の「氏名」については、条例第7条第1号本文該当として、非公開と判断したものである。
    同様に、行政文書3のうち、その取り消しの日から5年を経過した当該登録取消に係る保険医の「氏名」、「生年月日」「医籍登録番号」及び「登録番号」を非公開としたものである。
    また、行政文書3のうち非公開とした登録取消になった保険医の「医籍登録番号」については、一般に公表されている情報ではなく、また、当該登録の取消に係る香川社会保険事務局から報道機関に公表した情報にも含まれない個人に関する情報であることから、条例第7条第1号本文該当として非公開としたものである。

2 条例第7条第2号の該当性について

条例第7条第2号では、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを非公開情報と定めている。ただし、事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報については、非公開情報から除くこととしている。

  • (1)行政文書1、2について
    条例第7条第2号では、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものを非公開情報と定めている。ただし、事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報については、非公開情報から除くこととしている。
    本件については、医療機関の名称等が条例第7条第2号本文に該当する。
    以下、詳細について検討する。
    • ア 公文書一部公開決定時点までに処分がなされていない医師等について
      行政処分の対象とされていない以上、条例第7条第2号但書の情報には該当しない。
    • イ 医業停止等期間が終了した医師等について
      平成18年度までに処分が行われた医師等については、法律上医業停止等期間後には自動的に診療行為が認められるため、医業等停止期間を経過した者について、当該処分の情報を公開することの実益がなく、条例第7条第2号但書の情報には該当しない。
    • ウ 行政文書一部公開決定時に医業停止期間中であった医師等について
      医業停止処分を受けた者については、その期間中は診療行為をすることが認められていない。今回の請求に関しその氏名、医療機関名、事件名等の一定の情報について一般に対し公開することは、無資格者による診療を防ぐ趣旨から、条例第7条第2号但書に該当するものとして、今回公開したところである。
  • (2)行政文書3について
    今回請求に係る行政文書のうち、平成13年5月31日付け、平成13年8月10日付け香川県社会保険事務局による報道機関提供資料の写しは、香川社会保険事務局が「保険医療機関の指定の取消」を行った場合は、報道機関に資料提供し、公表している文書である。
    しかしながら、「保険医療機関の指定の取消」の時点では、当該保険医療機関が保険診療ができなくなったことを周知するなどの必要から、これに関する情報を公表していたとしても、その取り消しの日から5年を経過し、保険医療機関の指定を受けることができる状態になった法人又は個人にとって、過去に指定の取消しを受けたことを公表し続けることは、当該法人又は個人にとっての自由な事業活動を制限し、競争上の地位を害するおそれがあると考えられる。
    したがって、行政文書3のうち、指定取消になった保険医療機関の「名称」、「所在地」、「開設者名」及び「機関番号」について、条例第7条第2号該当として、非公開と判断したものである。

3 本件請求の3に係る行政文書の不存在について

本件請求の3に係る行政文書は、香川社会保険事務局が保管する書類であり、香川県の行政文書として存在しないことから、非公開決定したものである。

第5 審査会の判断理由

1 判断における基本的な考え方について

条例は、その第1条にあるように、県民の行政文書の公開を求める権利を具体的に明らかにするとともに、行政文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、県の保有する情報の一層の公開を図り、県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的として制定されたものであり、審査に当たっては、これらの趣旨を十分に尊重し、関係条項を解釈し、判断するものである。
なお、非公開情報の該当性の判断に当たっては、実施機関が主張する非公開理由のうちのいずれかに該当すると判断した情報については、他の非公開理由の該当性についての判断は行わないものである。

2 行政文書の内容等について

  • (1)行政文書1、2は、厚生労働大臣が医師法又は歯科医師法第7条第2項に基づく行政処分を行うに当たり、厚生労働省が、都道府県において把握している各事案に係る現況について照会したもの及び都道府県がこれに回答したものであり、当該文書にはそれぞれが把握している情報及び「行政処分対象事案報告書」(平成7年11月21日付け健政発第905号厚生省健康政策局長通知による。県からの回答文書のうち一部に添付。)をまとめ添付しているところである。
  • (2)行政文書3は、香川社会保険事務局長が、健康保険法第80条及び第81条の規定に基づき、保険医療機関及び保険医の登録の取り消しを行い、これについて、県知事に通知があったものである。また、保険医療機関及び保険医の登録の取り消しの際に香川社会保険事務局が報道機関に提供した資料の写しについて、県に提供があったものである。

3 関係条項の解釈について

  • (1)条例第7条第1号について
    条例第7条第1号は、個人の尊厳及び基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーを最大限に保護するために定められたものであるが、プライバシーの具体的な内容が法的にも社会通念上も必ずしも明確ではなく、その内容や範囲は事項ごと、各個人によって異なり得ることから、本条例は、プライバシーであるか否か不明確な情報も含めて、特定の個人が識別され得る情報を包括的に非公開として保護することとした上で、さらに、個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものについても、非公開とすることを定めたものである。
    しかし、これらの個人に関する情報には、個人の権利利益を侵害しないと考えられ非公開とする必要のない情報及び公益上の必要があると認められる情報も含まれているので、これらの情報を本号ただし書きで規定し、公開することを定めたものと解される。
  • (2)条例第7条第2号について
    条例第7条第2号は、法人等又は事業を営む個人の正当な利益を害することを防止する観点から、その事業活動の自由を保障し、公正な競争秩序を維持するため、公にすることにより当該法人等又は事業を営む個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれのある情報を非公開とすることとした上で、それらに該当する情報であっても、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報については、公開することを定めたものであると解される。

4 非公開情報該当性について

上記3で述べた基本的な考え方に基づき、以下、実施機関が非公開とした部分について検討する。

  • (1)行政文書1、2について
    • (a)条例第7条第1号の該当性について
      本件行政文書は、厚生労働大臣が医師法第7条等に基づく行政処分を行うに当たり、厚生労働省が、都道府県において把握している各事案に係る現況について照会した文書及び都道府県がこれに回答した文書であり、行政処分の原因となり得る事案を把握するために、新聞等の情報をもとに医師等が行った事件等をまとめたもの(以下「現況報告書」という。)及び司法処分等が確定し、行政処分の対象となり得る事案について詳細を報告した行政処分対象事案報告書が添付されている。
      現況報告書には、年度により異なるものの、報道年月日、都道府県、身分、氏名、生年月日、住所、医療機関名、事件名、事件の概要、司法処分等、備考、初回報告(公文)等が記載されている。
      行政処分対象事案報告書には、該当者の本籍、住所、氏名等に加え、事件の概要、事件当時の就業先医療機関の概要のほか、その他として本人及び家族の状況、医師会の入会及び退会の状況等が記載されている。
      医師等の行政処分は、医師法第7条等に基づき厚生労働大臣がその免許を取り消し、又は期間を定めてその業務の停止を命ずるものである。
      これらの医師等に対する処分は、その本質は当該個人に対して科される制裁として捉えられるべきものであって、特定の医師等に対する行政処分に関する情報は、その結果如何により当該処分を受けた者の医師等としての事業活動が制約される場合があるという点において、当該医師等の事業との関連性を有することがあり得るとしても、個人としての当該医師等の名誉や人格に重大なかかわりを持つ情報としての性格が強いものと認められる。
      他方、条例第7条第2号が法人その他の団体(以下「法人等」という。)に関する一定の情報を非公開情報と定めたのは、企業情報のうち、営業上の秘密やノウハウ等、開示することにより当該法人等の競争上の地位や財産権その他の正当な権利利益を害するおそれのあるものについては、企業活動への影響の観点から保護すべきものとされたことによるものである。そして、事業を営む個人の当該事業に関する情報について、これを同条第1号の個人情報から除外し、同条第2号の法人情報と併せて規定した趣旨は、事業を営む個人の当該事業に関する情報が、法人等情報と同列のものとして事業活動への影響の観点からの基準によることが適当とされたものと解される。
      このことからすると、本件行政文書が行政処分の原因となり得る事案を把握するために作成され、当該個人の名誉や人格に直接かかわる行政処分の原因となり得る事案に関する情報であることから、立法趣旨に照らしても、法人情報と同様の判断基準によるべきものと言うことはできず、正に個人情報として、同条第1号の規定に基づきその公開・非公開が判断されるべきものと思料する。
      なお、個人に関する情報に該当するか否かは、医師法又は歯科医師法第4条のいずれの欠格事由に該当するか、言い換えれば、行政処分に付された理由が医師等の業務上の行為に起因するものであるかどうかにより異なるものではない。
      本件行政文書のうち実施機関が非公開とした部分は、氏名、生年月日等の個人が識別され得る個人に関する情報のほか、事件の概要や司法処分等の特定の個人の経歴等に関する情報及び個人の行動に関する情報が記載されており、個人識別部分を除いたとしても、なお公にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあり、条例第7条第1号本文に該当すると判断される。
    • (b)条例7条1号ただし書アの該当性について
      医師等については、免許取消し、業務停止等の行政処分が厚生労働省から記者発表の形で公表されており、公表項目は、職種や事案によって若干異なるが、おおむね、処分内容、処分年月日、氏名、年齢、住所、勤務先名称、犯罪等の内容、判決の内容等となっている。
      本件行政文書に記載の情報は、そのうちの氏名、年齢、住所、勤務先名称、犯罪の内容、判決の内容に該当するものである。
      医師等は、医療関係の専門職種であり、その職務の性質から、人の健康に直接影響を与える立場にあり、患者である県民の視点に立てば、診療を依頼する相手が現に免許を有しているか否か、業務停止中であるか否かにつき、これを事前に確認する手段が確立されていないのは相当でないことから、医師等の処分については、上記のとおり被処分者の氏名、処分内容等を公表しており、処分を受けた医師等の当該処分に係る情報については「慣行として公にすることが予定されている情報」と言うことができる。
      しかし、本件処分時までに医師法等による行政処分がなされていない医師等に係る情報については、当該情報を公にすべきものとする法令の規定はなく、また、本件行政文書に記載の情報は、新聞報道をもとに作成されたものではあるが、新聞報道により当該情報が一時的に公衆の知りうる状態に置かれたとしても、本件公開請求の時点において公知の事実といいうるかどうか疑問である上、当該情報は、あくまでも報道機関がその取材に基づき独自に報道したものであるから、それをもって、当該情報が「法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当するとは言えない。また、その他のただし書に該当しないことは明らかである。
      よって、本件処分時までに医師法等による行政処分がなされていない医師等に係る情報については、条例第7条第1号本文に該当するとして非公開としたことは妥当である。
    • (c)過去に公表された情報について
      医師法第7条第3項には、免許を取り消された者であっても、その者がその取消し理由となった事項に該当しなくなったとき、その他その後の事情により再び免許を与えることが適当であると認められるに至ったときは、再免許を与えることができる旨規定されている。すなわち、医師等が行政処分を受け、免許取消しになった場合に、再度免許を取得することが制度的に認められており、一度欠格事由に該当すればその後一定の要件を満たしても二度と免許を与えない仕組みとはなっていないことから考えると、過去の行政処分を永続的に公開することは適当ではなく、一定年限経過後には過去の処分については非公開とすることにも合理的理由がある。
      これまで、医師等の過去の行政処分につきどこまで遡及して開示すべきかについて、明確で合理的な基準がなく、行政処分の内容や軽重等を考慮することなく、一律に次の処分が行われるまでの間、被処分者の氏名等が公表されていた。
      しかし、厚生労働省では、平成17年4月に取りまとめられた「行政処分を受けた医師に対する再教育に関する検討会報告書」で提言された、行政処分に係る課題等について検討を進め、「医師等の行政処分のあり方等に関する検討会」を開催し、平成17年12月に報告書をまとめている。
      その報告書では、医師等の過去の処分に関する情報の提供について、「現在、行政処分を行った際には、処分の内容や処分の原因となった事件等を資料として公表しているところである。従って、医師等の処分に関する情報は公にされている情報といえるが、だからといってその情報をいつまでも提供し続けることは、個人情報保護の観点から適切とはいえない。そこには一定程度の期限が設けられてしかるべきである。その期限を具体的に考えてみると、行政処分を受けた医師等には再教育が義務付けられることに鑑み、医業停止処分等については処分終了時又は再教育終了時の遅い方、戒告処分については再教育終了時とし、これらの時点からは、プライバシーの保護を優先して提供しないこととすることが適当である。」としている。
      そのため、厚生労働省は、平成19年4月から医師等の行政処分に関する情報を公表しているが、その制度にあっても、公表期間は免許停止期間としていることからすれば、医師等の行政処分に関する情報は、上記報告書で示された期間の範囲において公にされるべき性質の情報であると考えられる。本件行政文書に記載の情報のうち、行政処分期間を経過した者の情報は、もはや公にされている情報には該当しないと判断され、ただし書アには該当せず、その他のただし書にも該当しないと判断されることから、条例第7条第1号本文に該当するとして非公開としたことは妥当であると判断される。
    • (d)本件処分時に医業停止期間中であった医師等の情報について
      医師等の処分については、上記のとおり被処分者の氏名、処分内容等を公表しており、処分を受けた医師等の当該処分に係る情報については「慣行として公にすることが予定されている情報」と判断される。
      しかし、実施機関が非公開とした報道年月日、捜査情報が記載されている司法処分等の一部、生年月日、対象者の従前の住所については、厚生労働省の記者発表においても公表されている情報とは認められず、ただし書アには該当せず、その他のただし書にも該当しないことから、条例第7条第1号本文に該当するとして非公開としたことは妥当であると判断される。
  • (2)行政文書3について
    • (a)保健医療機関の指定の取消に係る情報について
      保険医療機関の指定は、公法上の契約であると解されており、資格等に関する情報ではない。
      さらに、業として行われる医療行為の診療方法や診療に対する対価の支払方法に関する情報と考えられ、法人等の当該事業に関する情報と考えられる。
      よって、保険医療機関の指定の取消に係る情報については、条例第7条第2号に規定する法人等情報として非公開情報該当性の判断を行うべきものと判断される。
    • (b)条例第7条第2号の該当性について
      実施機関は、保険医療機関の指定の取り消しに係る情報は、保険医療機関において保険診療ができなくなったことを周知する必要性から報道機関に資料提供されているものであり、再度、保険医療機関の指定を受けることができる状態になった法人等にとって、過去に指定の取消しを受けたことを公表し続けることは、当該法人等の自由な事業活動を制限し、競争上の地位を害するおそれがあると主張している。
      実施機関が香川社会保険事務局に問い合わせたところ、本件資料は、保険医療機関の指定の取消の際に報道機関に資料提供するのみで、その後は公表しておらず、法律の規定により再指定又は再登録が可能となる指定の取消後5年を経過した案件については、指定の取消に関する情報は、当該保険医療機関の正当な利益を害するおそれがあるとして非公開とする扱いであるとのことであった。
      保険医療機関の指定にあっては、指定の取消になった場合でも、再度保険医療機関の指定をすることが制度的に認められており、一度欠格事由に該当すればその後一定の要件を満たしても二度と指定しない仕組みとはなっていないことから考えると、過去の保険医療機関の指定の取消という事実を永続的に公開することは適当ではなく、一定年限経過後には過去の事実については非公開とすることにも合理的理由がある。
      実施機関が非公開とした部分は、保険医療機関の名称、所在地等の情報のほか、当該保険医療機関の保険医の情報であり、保険医療機関の指定の取消を受けた保険医療機関がどこであるかが判る情報である。
      医療が、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づいて行われるものである点を考慮すると、保険医療機関の再指定が可能となる5年を超えて、当該情報を公にした場合、当該法人等の正当な利益を害するおそれがないとはいえない。よって、実施機関が条例第7条第2号に該当するとして非公開としたことは妥当であると判断される。
    • (c)保険医の登録の取消となった医師の生年月日及び医籍登録番号について
      医籍登録番号は、医師免許取得者毎に付与された医師免許の番号であり、生年月日と共に条例第7条第1号本文に規定する、特定の個人が識別され得る個人に関する情報であると認められる。
      次にただし書について検討する。
      生年月日及び医籍登録番号は、厚生労働省や香川社会保険事務局の報道発表においても公表されることのない情報であり、法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報に該当せず、ただし書アに該当しないと判断され、その他のただし書に該当しないことは明らかである。
      よって、実施機関が、生年月日及び医籍登録番号が条例第7条第1号本文に該当するとして非公開としたことは妥当であると判断される。
  • (3)本件請求の(3)に係る行政文書について
    実施機関は、香川社会保険事務局が保管する書類であり香川県の行政文書として存在しないと主張している。
    実施機関に説明を求めたところ、診療報酬等の不正請求等に関する調査権限は、医療保険制度ごとに社会保険事務局又は都道府県に認められているところではあるが、診療報酬等に関する規定や考え方も同一であり、一の保険医療機関が行った保険診療に関する不正請求に係る調査については、全ての保険診療を対象として行うことがより正確な調査の実施となることから、香川県では香川社会保険事務局と県とが合同で調査を行っている。
    そして、診療報酬等の不正請求等に係る調査に関する記録についても、同一事案に関するものであることから香川社会保険事務局が作成し、県ではその内容の確認を行い、香川社会保険事務局の行政文書として保管している。そのため、県では請求対象となる行政文書は保有していない。さらに、業務で必要な情報はいつでも香川社会保険事務局から提供を受けることができるため、副本や写しの交付は受けていないとのことであった。
    これら実施機関の説明は具体的かつ詳細なもので合理的であると判断され、実施機関が診療報酬等の不正請求等に係る調査に関する記録を保有しなければならないとする規定や事務事業上の必要性は認められず、さらに、異議申立人にあっても請求対象行政文書の存在について何ら具体的な主張をしておらず、その存在を推測させる特別の事情も認められない。
    よって、本件請求の(3)に係る行政文書について、香川県の行政文書として存在しないとして非公開決定したことは妥当である。

5 第3の2異議申立ての理由のうち、(3)について

条例の解釈、運用に関するものでないので、審査会では判断しないものとする。

よって、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。

第6 審査会の審査経過

当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり審査を行った。

(省略)

別表1 実施機関が特定した行政文書

  1. 本件請求の(1)に該当するもの
    「医師法第4条各号等の医師の免許の取消又は医業の停止の要件に該当する可能性のある事案についての厚生労働省からの照会文書について(平成12年度以降分)」厚生労働省からの通知(平成12年7月10日付け、平成12年12月14日付け、平成13年9月6日付け、平成13年12月25日付け、平成14年7月26日付け、平成15年2月18日付け、平成15年12月9日付け、平成16年7月1日付け、平成17年6月27日付け、平成17年12月21日付け、平成18年8月29日付け、平成18年12月27日付け文書)(以下これらを「行政文書1」という。)「上記当該各照会に対する(県からの)回答文書(平成12年度以降分)」県から厚生労働省への回答文書(平成12年8月4日付け、平成13年1月26日付け、平成13年9月27日付け、平成14年2月12日付け、平成14年9月27日付け、平成15年6月9日付け、平成16年1月26日付け、平成16年8月27日付け、平成17年8月25日付け、平成18年2月21日付け、平成18年9月19日付け、平成19年2月22日付け文書)(以下これらを「行政文書2」という。)
  2. 本件請求の(2)に該当するもの
    「保険医療機関の指定の取消及び保険医の登録の取消について」香川社会保険事務局長からの通知及び香川社会保険事務局による報道機関提供資料の写し(平成13年5月31日付け、平成13年8月10日付け、平成16年7月16日付け、平成17年8月23日付け、平成18年8月17日付け、平成19年3月9日付け文書)(以下これらを「行政文書3」という。)
別表2
公開しない部分 公開しない理由
  • 行政文書1及び2のうち、現在医業停止期間中以外の者に係る記載事項について
(a)照会に係る関係事案について記載した用紙については、「都道府県」「身分」「事件名」「初回連絡(公文)」及び「備考」の一部に関する記載部分を除いた事項
特定の個人を識別することのできる情報又は公にすることによりなお個人の権利利益を害するおそれのある情報
(条例第7条第1号本文該当)

公にすることにより、当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため
(条例第7条第2号本文該当)
(b)「行政処分対象事案報告書」【県から厚生労働省への回答文書のうち、平成13年9月27日付け、平成14年2月12日付け、平成14年9月27日付け各文書に添付】について
  • 平成13年9月27日付け
    1. 該当者
      • (1)本籍、(2)住所、(3)氏名、
      • (4)生年月日、(5)歯科医籍登録番号
    2. 事件の概要
    3. 事件当時の勤務先医療機関の概要
      • (1)名称、(2)住所、(3)開設者、
      • (4)管理者、(5)開設年月日、
      • (10)事件後の状況
    4. その他
      • (1)本人及び家族の状況
      • (2)医師会の入会及び退会の状況
      • (3)不正請求額の最終決定金額及びその不正請求期間
  • 平成14年2月12日付け
    1. 該当者
      • (1)本籍、(2)住所、(3)氏名、
      • (4)生年月日、(5)医籍登録番号、(6)略歴
    2. 事件の概要
    3. 事件当時の勤務先医療機関の概要
      • (1)名称、(2)住所、(3)開設者・管理者、
      • (4)開設年月日、(9)事件後の状況
    4. その他
      • (1)本人及び家族の状況
      • (2)医師会の入会及び退会の状況
      • (3)不正請求に係る期間及び金額
      • (5)医療法人の役員名簿
  • 平成14年9月27日付け
    1. 該当者
      • (1)本籍、(2)住所、(3)氏名、
      • (4)生年月日、(5)医籍登録番号、(6)略歴
    2. 事件の概要
    3. 事件当時の勤務先医療機関の概要
      • (1)名称、(2)住所、(3)開設者・管理者、
      • (4)開設年月日、(9)事件後の状況
    4. その他
      • (1)本人及び家族の状況
      • (2)医師会の入会及び退会の状況
      • (3)不正・不当請求に係る期間及び金額
      • (4)不正・不当請求額の返還状況
      • (5)医療法人の役員名簿
(c)行政文書1及び2のうち、現在医業停止期間中の者に係る記載事項に関し、「報道年月日」及び「司法処分等」の一部に関する事項
(生年月日、住所)
(a)平成13年5月31日付け及び平成13年8月10日付け「保険医療機関の指定の取消及び保険医の登録の取消について」香川県社会保険事務局長からの通知のうち、保険医の登録の取消に係る「氏名」、「生年月日」、「医籍登録番号」及び「登録番号」
(b)平成13年5月31日付け及び平成13年8月10日付け「保険医療機関の指定の取消及び保険医の登録の取消について」香川県社会保険事務局による報道機関提供資料の写しのうち、次の部分
  • 「1.答申の内容(2)保険医の登録の取消」の「氏名」
  • 「2.保険医療機関の概要」に係る「管理者」の「氏名」
特定の個人を識別することができる情報であるため
(条例第7条第1号本文該当)
(c)平成16年7月16日付け及び平成19年3月9日付け「保険医療機関の指定の取消及び保険医の登録の取消について」香川県社会保険事務局長からの通知のうち、「保険医の登録の取消」に係る「医籍登録番号」
(d)平成13年5月31日付け及び平成13年8月10日付け「保険医療機関の指定の取消及び保険医の登録の取消について」香川県社会保険事務局長からの通知のうち、保険医療機関の指定の取消に係る「名称」、「所在地」、「開設者」及び「機関番号」
(e)平成13年5月31日付け及び平成13年8月10日付け「保険医療機関の指定の取消及び保険医の登録の取消について」香川県社会保険事務局による報道機関提供資料の写しのうち、次の部分
  • 「1.答申の内容(1)保険医療機関の指定の取消」の「保険医療機関名」
  • 「2.保険医療機関の概要」の「名称」、「所在地」及び「開設者」
公にすることにより、当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため
(条例第7条第2号本文該当)

401号~450号 451号~500号 501号~

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