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公開日:2011年10月6日

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平成23年10月6日 答申第484号(香川県情報公開審査会答申)

平成23年10月6日(答申第484号)

答申

第1 香川県情報公開審査会(以下「審査会」という。)の結論

香川県収用委員会(以下「実施機関」という。)が非公開決定(以下「本件処分」という。)により非公開とした行政文書のうち、別表の「審査会の判断」で非公開とした部分を除き、公開すべきである。

第2 異議申立てに至る経過

1 行政文書の公開請求

異議申立人は、平成22年10月12日付けで、香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号。以下「条例」という。)第5条の規定により、実施機関に対し、「新内海ダム開発事業に係る土地その他の収用に関する裁決の取消訴訟に関する訴状その他の民事訴訟記録の全部(写しを含む。)」という内容の行政文書の請求を行った。

2 実施機関の決定

実施機関は、公開請求のあった行政文書として次の行政文書(以下「本件行政文書」という。)を特定し、条例第28条第2項及び第7条第4号に該当するとして本件処分を行い、平成22年11月10日付けで異議申立人に通知した。

  • (1)訴状(甲号証写しを含む。以下「本件行政文書(a)」という。)
  • (2)訂正申立書(以下「本件行政文書(b)」という。)
  • (3)訴状謄本(以下「本件行政文書(c)」という。)
  • (4)呼出状(以下「本件行政文書(d)」という。)

3 異議申立て

異議申立人は、本件処分を不服として、平成22年11月11日付けで、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定により実施機関に対して異議申立てを行った。

第3 異議申立ての内容

1 異議申立ての趣旨

「本件処分を取り消すとの決定を求める」というものである。

2 異議申立ての理由

異議申立書において主張している理由は、おおむね次のとおりである。

  • (1)本件処分は、条例の解釈適用を誤った違法な処分であるから、本件処分を取り消し、全部公開をする必要がある。
  • (2)本件「決定通知書」記載の「公開しない理由」は、条例に規定する非公開とできる理由には該当しない。
    • (a)民事訴訟法(平成8年法律第109号。以下「法」という。)第91条第1項では、閲覧は可能であるが、写しの交付は不可能であるから、条例第28条第2項に該当しない。
    • (b)法第91条第1項により「閲覧」は可能であるから、条例第7条第4号には該当しない。

第4 実施機関の説明の要旨

非公開理由等説明書による説明は、おおむね次のとおりである。

1 非公開決定の経緯について

内海ダム再開発事業(以下「本件事業」という。)については、他の実施機関である知事において、内海ダム再開発事業認定処分取消請求事件(以下「事業認定取消訴訟」という。)外2件が係争中であるため、公開の可否を決定するに当たっては、香川県知事(以下「知事」という。)へ公開の可否を照会し、その意見も参考にして決定した。

2 非公開理由について

  • (1)条例第7条第4号イの非公開情報に該当することによる非公開
    訴訟については、原告、被告双方が法廷においてそれぞれの主張を戦略的に展開し、自らの主張の正当性を争っており、一般的に係争中の訴訟記録を無条件に公開することは、訴訟を展開してゆく上で大きな支障を生ずるものと考えられる。また、訴訟記録は、争訟に関する文書そのものであり、その性質上、部分的な開示に適さないと考えられる。
    今回、本件事業について係争中である知事も、次のとおり、訴訟への影響を指摘しており、理解できるものである。
    「内海ダム再開発工事収用裁決等取消請求事件(高松地方裁判所平成22年(行ウ)第○○号事件。以下「本件訴訟」という。)について、被告県の代表者は実施機関であり、その請求の趣旨は収用裁決の取消を求めるものとなっている。
    しかしながら、この争訟において原告は、もっぱら国土交通省四国地方整備局長が行った本件事業に係る事業認定処分の違法性を主張しており、既に国を相手として争訟継続中の事業認定取消訴訟と主張内容は実質的に同じものとなっている。
    本件事業の起業者たる県としては、先行する事業認定取消訴訟に参加人として参加し、その立場を主張立証しているところ、本件訴訟の行方についても重大な利害関係を有するので参加人として参加しており、本件行政文書を公開することにより、上記複数の争訟(以下「本件事業関連訴訟」という。)における県の地位を不当に害するおそれがある。その理由は、次のとおりである。
    • (a)本件事業は、別当川の氾濫による浸水被害の軽減、渇水時における流水の正常な機能の維持及び上水道の安定的な供給の確保を目的として、総貯水容量1,060,000立方メートルの重力式コンクリートダムの建設工事を施行する大規模な公共事業である。本件事業の施行により得られる公共の利益は多大なものがあり、本件事業関連訴訟での県の勝敗により影響を受ける県民は大規模数に及ぶものである。一方、本件事業関連訴訟における原告らの数も、地権者等100人を超える規模に及ぶものもある。
      このように本件事業関連訴訟は、大規模事業に係るものであり、かつ利害関係人も大規模数に及ぶものであり、社会的影響力が大きい上、本件事業の事業内容、本件事業の施行により得られる公共の利益や失われる利益を詳細に理解した上でなければ、本件行政文書の正確な趣旨を理解することができない。
    • (b)本件事業関連訴訟では、ア治水対策の必要性イ利水対策の必要性ウ新内海ダムの安全性エ寒霞渓の自然・文化環境への影響を主な争点として、原告と県との間で意見が鋭く対立している。
      • ア治水対策の必要性については、過去の災害の被災原因、別当川の流下能力・基本高水流量の評価、代替案との比較検討が、イ利水対策の必要性については、吉田ダム完成後の利水の必要性、上水道需要量予測、地下水への影響が、ウ新内海ダムの安全性については、新内海ダム下の断層の存在、新内海ダムの堰堤構造の安全性、地盤沈下・地滑りの危険性、住家との近接性が、エ寒霞渓の自然・文化環境への影響については、景観対策、動植物への対応が、それぞれ詳細な争点となっており、これらの問題点に関する妥当性の検討には、極めて高度な専門的・技術的知見に基づいた解析能力が必要となっている。本件事業関連訴訟において、専門的知見に基づいた論証を行うため、原告被告ともにそれぞれの専門分野の専門家による証人尋問を予定しているところである。
        このように本件事業関連訴訟は、専門的かつ高度な知見に基づいた解析能力がなければ、本件行政文書の正確な趣旨を理解することができない。
    • (c)訴訟資料は、相手方の主張に対抗するような形式で整えられることが一般的であるが、本件事業関連訴訟における原告らの主張内容は、明らかに根拠を欠くもの、住民の不安をいたずらにあおるもの、相手方に対する中傷など、通常の訴訟には見られない内容のものが多い。
      例えば、本件行政文書中の訴状では、昭和51年の台風17号による甚大な被害は、別当川の氾濫との間には直接の因果関係がない旨を原告は主張しているが、これは原告側の事実誤認に基づく主張であり、このような誤った情報が特に写しの交付により本件事業関連訴訟の原告以外の県民に公開された場合、コピー等により情報が、広く伝播し、県民の誤解が増幅されるおそれがある。
      以上のとおり、本件事業関連訴訟については、通常の争訟にはない特殊性があり、本件行政文書の閲覧又は写しの交付によって、本件事業関連訴訟の原告以外の県民に広く公開されることにより、本件事業関連訴訟における事実関係及び主張内容について、県民の誤解を招くおそれが大きく、ひいては県の自律的な争訟方針の決定及び争訟活動の遂行が妨げられる可能性が大きい。
      したがって、本件行政文書を公開することは、争訟に係る事務に関し県の当事者としての地位を不当に害するおそれがあり(条例第7条第4号イの非公開情報に該当)、支障がある。」
  • (2)条例第28条第2項の規定による非公開
    条例第28条第2項本文は、「実施機関は、他の法令等の規定により、何人にも公開請求に係る行政文書が第16条第2項に規定する方法と同一の方法で公開することとされている場合(公開の期間が定められている場合にあっては、当該期間内に限る。)には、同項の規定にかかわらず、当該行政文書については、当該同一の方法による公開を行わない。」と規定する。また、条例第16条第2項は、「行政文書の公開は、文書、図画又は写真については閲覧又は写しの交付により、電磁的記録については別表第1に掲げる方法により行う。」と規定する。
    ここで、本件行政文書は、条例第16条第2項の「文書、図画又は写真」に該当することから、条例第28条第2項本文の「第16条第2項に規定する方法と同一の方法」及び「当該同一の方法」とは、「閲覧又は写しの交付」を意味することとなる。
    したがって、条例第28条第2項本文の趣旨は、「実施機関は、他の法令等の規定により、何人にも公開請求に係る行政文書が閲覧又は写しの交付の両方又はいずれか一方の方法で公開することとされている場合には、条例の適用除外とし、当該行政文書については、公開を行わない。」というものであると解される。
    一方、法第91条第1項は、「何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。」と規定する。
    ここで、法第91条第1項の規定により何人も訴訟記録の閲覧を請求することができる現状は、上記趣旨の「他の法令等の規定により、何人にも公開請求に係る行政文書が閲覧又は写しの交付の両方又はいずれか一方の方法で公開することとされている場合」に該当する。
    よって、訴訟記録については、法第91条第1項の規定に基づき何人も訴訟記録の閲覧を行うことが可能であることから、条例第28条第2項本文の規定により、公開を行わないものであり、本件行政文書は、非公開としたものである。

第5 審査会の判断理由

1 判断における基本的な考え方について

条例は、その第1条にあるように、県民の行政文書の公開を求める権利を具体的に明らかにするとともに、行政文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、県の保有する情報の一層の公開を図り、県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の発展に寄与することを目的として制定されたものであり、審査に当たっては、これらの趣旨を十分に尊重し、関係条項を解釈し、判断するものである。

2 本件行政文書について

本件行政文書は、現在、訴訟係属中の本件訴訟に関する訴訟記録であり、その内容は、次のとおりである。

  • (1)本件行政文書(a)
    原告が高松地方裁判所に提出した訴状副本が裁判所から知事に送達されたものであり、甲号証写しが添付されているもの。
  • (2)本件行政文書(b)
    原告が高松地方裁判所に本件行政文書(a)の被告表示の訂正を申し立て、その訂正申立書の副本が高松地方裁判所から実施機関に対し送達されたもの。
  • (3)本件行政文書(c)
    原告が高松地方裁判所に提出した訴状正本の謄本であり、本件行政文書(b)と併せて実施機関に対し送達されたものであり、甲号証写しは添付されていない。裁判所書記官の謄本認証等を除き本件行政文書(a)と同一のもの。
  • (4)本件行政文書(d)
    高松地方裁判所が実施機関を指定された期日に出頭するように呼び出すために、実施機関に対し送達したもの。

3 非公開情報該当性について

  • (1)条例第28条第2項の適用の妥当性について
    実施機関は、「訴訟記録については、法第91条第1項の規定に基づき何人も訴訟記録の閲覧を行うことが可能であることから、条例第28条第2項本文の規定により、公開を行わないものであり、本件行政文書は、非公開としたものである。」と主張しているので、条例第28条第2項の適用の妥当性について検討する。
    条例第28条第2項では、「実施機関は、他の法令等の規定により、何人にも公開請求に係る行政文書が第16条第2項に規定する方法と同一の方法で公開することとされている場合には、同項の規定にかかわらず、当該行政文書については、当該同一の方法による公開を行わない。ただし、当該他の法令等の規定に一定の場合には公開をしない旨の定めがあるときは、この限りでない。」と規定している。当該条項の趣旨は、個別法において、公表、公示、閲覧等により県民に行政文書を公開する手続が規定されている場合には、当該行政文書について、この条例による公開請求の対象とする必要性は乏しく、また、事務手続の簡素化を図る観点から、当該手続による公開と同一の方法による公開を行わないことを定めたものであり、他の法令等による公開制度と条例による情報公開制度との調整を規定しているものである。
    • (a)条例第28条第2項による調整の対象について
      実施機関の当該主張は、条例第28条第2項による調整の対象について、実施機関が保有する行政文書そのものが他の法令等の規定により実施機関において公開されている場合に当該行政文書の公開請求が行われたとき、及び実施機関以外の国、裁判所その他の機関(以下「他の機関」という。)が保有する文書が他の法令等の規定により他の機関において公開されている場合に当該文書と同一内容の行政文書(以下「当該同一内容行政文書」といい、当該文書の写し、控え、副本又は謄本等であって、実施機関が保有するものをいう。)の公開請求が行われたときの双方が含まれることを前提としていると考えられる。
      そこで、条例第28条第2項の文言を検討すると、同条同項にいう「行政文書」とは、条例第2条本文によれば、「この条例において『行政文書』とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び写真並びに電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものをいう。」とされている。そもそも情報公開制度は、実施機関が保有する行政文書を公開することにより、行政の透明性を確保することなどを目的としていることから、条例第28条第2項は、実施機関の保有する行政文書について、情報公開制度を適用するか他の公開制度を優先するかという調整規定と解するべきである。
      すなわち、条例第28条第2項は、実施機関が保有する行政文書そのものが他の法令等の規定により実施機関において公開されている場合に、当該行政文書の公開請求が行われたときの調整方法を定めたものであり、他の機関が保有する文書が他の法令等の規定により他の機関において公開されている場合に、当該同一内容行政文書の公開請求が行われたときは、同条同項による調整の対象でないと判断される。
      また、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号。以下「情報公開法」という。)第15条にも同様の規定があるが、「総務省行政管理局編・詳解情報公開法」においては、「請求に係る『行政文書』としたのは、他の法令の規定において、行政機関以外の国会、裁判所、地方公共団体その他の法人等が何人にも『文書』を開示することとされている場合を含まない趣旨である。」と上記判断と同趣旨の解釈が示されている。さらに、判例(平成16年2月26日大阪地方裁判所判決:平成15年(行ウ)第95号)においても、この考え方は支持されている。
      したがって、実施機関が保有する本件行政文書と同一内容の文書である本件訴訟に関する訴訟記録(以下「本件訴訟記録」という。)は、裁判所の保有する文書であって法第91条第1項の規定に基づき裁判所において何人も閲覧を請求することができるとされているが、本件行政文書そのものが法第91条第1項の規定に基づき何人にも閲覧を請求することができるとされているものではないことから、本件行政文書について条例第28条第2項の適用はないと判断される。
    • (b)他の法令等による公開の方法と条例による公開の方法の調整について
      上記(a)のとおり、本件行政文書には、条例第28条第2項が適用されないと判断されるが、実施機関が「条例第28条第2項本文の趣旨は、他の法令等の規定により何人にも公開請求に係る行政文書が条例第16条第2項に規定する方法のうちいずれかの方法で公開することとされている場合には、当該行政文書については、公開を行わないというものである。」と主張していることから、この点についても検討する。
      実施機関は上記のとおり主張するが、条例第28条第2項において「当該同一の方法による公開は行わない。」と規定されているようにその文言からは、他の法令等の規定する公開の方法が閲覧又は写しの交付その他の条例第16条第2項に定める方法のいずれかである場合に、当該他の法令等の規定する公開の方法による公開をしないこととする趣旨であり、実施機関が主張するように他の法令等の規定する公開の方法が条例第16条第2項に規定する方法のうちいずれか一の方法であることをもって、他の法令等で規定されていない方法による公開まで行わないこととする趣旨ではないものと解される。
      なお、この点についても「総務省行政管理局編・詳解情報公開法」では、「他の法令の規定における開示の方法が情報公開法第14条第1項本文に規定する開示の方法と同一である場合に限って、当該同一の方法による開示をしないこととするものである。」と上記判断と同趣旨の解釈が示されている。さらに、判例(平成19年7月26日東京地方裁判所判決:平成19年(行ウ)第55号)においても、この考え方は支持されている。
      したがって、本件訴訟記録が法第91条第1項により閲覧に限って何人も請求することができるとされていることをもって、本件行政文書を非公開とした本件処分は妥当でないと判断される。
  • (2)条例第7条第4号の該当性について
    実施機関は、「訴訟については、原告、被告双方が法廷においてそれぞれの主張を戦略的に展開し、自らの主張の正当性を争っており、一般的に係争中の訴訟記録を無条件に公開することは、訴訟を展開してゆく上で大きな支障を生ずるものと考えられる。また、訴訟記録は、争訟に関する文書そのものであり、その性質上、部分的な開示に適さないと考えられる。」と主張している。
    本件行政文書は、行政訴訟の訴訟記録であり、訴訟記録の閲覧等については、行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)第7条の規定により法が準用されており、法第91条第1項は、「何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。」と定めている。そして、法では、第91条第2項による公開禁止の措置、法第92条による秘密保護のための閲覧等の制限の措置が規定されているが、法第91条第2項による公開禁止の決定は、法第119条の規定により訴訟当事者に告知されて、当事者出席の上、非公開での口頭弁論が行われ、さらに法第92条による閲覧制限決定は、法第119条の規定により申立人の当事者に対しその決定が告知され、申立人以外の当事者が知らない場合には、第三者に秘密を漏らしてしまうおそれもあることから、実務上は申立人以外の当事者にも上記決定があった旨その内容が通知されている。したがって、仮に本件行政文書について、上記各決定がなされれば、実施機関においてこれを把握していることから、そのような措置がとられていないことは明らかであり、本件行政文書と同一内容の文書が何人にも閲覧可能なものとして公開されているものと認められる。
    また、本件行政文書については、上記のように同一内容の文書が法に基づき何人にも閲覧可能なものとして公開されているものであるが、そのことによって、実施機関の訴訟活動に支障をきたしたり、訴訟進行に不必要な混乱を生じたとの形跡などについて、実施機関は言及していない。
    したがって、実施機関の主張は、裁判が一般に公開の場で行われ、訴訟記録も公開されていることから、抽象的であり、かつ、実質的理由に乏しく認められない。
    また、実施機関は、本件行政文書を公開することによる、争訟に係る事務に関し訴訟当事者としての地位を不当に害するおそれのある具体的な支障について、以下のとおり知事の意見を引用していることから、当該意見について検討する。
    知事の意見はおおむね次のとおりである。
    「本件事業の起業者たる県は、先行する国を相手として争訟継続中の事業認定取消訴訟に参加人として参加し、その立場を主張立証していると共に、本件訴訟についても重大な利害関係を有するので参加人として参加しており、本件行政文書を公開することにより、次の理由により本件事業関連訴訟における県の地位を不当に害するおそれがある。
    • (a)本件事業の施行により得られる公共の利益は多大なものがあり、本件事業関連訴訟での県の勝敗により影響を受ける県民は大規模数に及ぶものである。一方、本件事業関連訴訟における原告らの数も地権者等100人を超える規模に及ぶものもある。
      このように本件事業関連訴訟は、大規模事業に係るものであり、かつ利害関係人も大規模数に及ぶものであり、社会的影響力が大きい上、本件事業の事業内容、本件事業の施行により得られる公共の利益や失われる利益を詳細に理解した上でなければ、本件行政文書の正確な趣旨を理解することができない。
    • (b)本件事業関連訴訟では、治水対策の必要性、利水対策の必要性、新内海ダムの安全性及び寒霞渓の自然・文化への影響を主な争点として、原告と県との間で意見が鋭く対立している。
      本件事業関連訴訟において、専門的知見に基づいた論証を行うため、原告被告ともにそれぞれの専門分野の専門家による証人喚問を予定しているところである。
      このように本件事業関連訴訟は、専門的かつ高度な知見に基づいた解析能力がなければ、本件行政文書の正確な趣旨を理解することができない。
    • (c)訴訟資料は、相手方の主張に対抗するような形式で整えられることが一般的であるが、本件事業関連訴訟における原告らの主張内容は、明らかに根拠を欠くもの、住民の不安をいたずらにあおるもの、相手方に対する中傷など、通常の訴訟には見られない内容のものが多い。例えば、本件行政文書中の訴状では、昭和51年の台風17号による甚大な被害は、別当川の氾濫との間には直接の因果関係がない旨を原告は主張しているが、これは原告側の事実誤認に基づく主張であり、このような誤った情報が特に写しの交付により本件事業関連訴訟の原告以外の県民に公開された場合、コピー等により情報が、広く伝播し、県民の誤解が増幅されるおそれがある。
      以上のとおり、本件事業関連訴訟については、通常の争訟にはない特殊性があり、本件行政文書の閲覧又は写しの交付によって、本件事業関連訴訟の原告以外の県民に広く公開されることにより、本件事業関連訴訟における事実関係及び主張内容について、県民の誤解を招くおそれが大きく、ひいては県の自律的な争訟方針の決定及び争訟活動の遂行が妨げられる可能性が大きい。」
      上記理由の(a)及び(b)は、本件事業のもつ重要性の理解や事業が必要とされる科学的根拠等についての理解がなければ、県民の誤解を招くおそれがあるとの主張であるが、誤解を招くおそれやそれに伴う事務支障の具体的な説明もないことから、この主張は当たらない。
      理由の(c)は、本件行政文書を見分したところ、裁判は当事者間がお互いの主張に基づき争うものであることを考慮すれば、原告が一方の当事者として主張する内容が全て中傷などに当たるとまでは言い難いと認められる。さらに、情報公開制度による写しの交付による情報の伝播性を問題としており、事実でないことや中傷などが広く伝播されることによる事務の支障が生じる可能性が想定される場合も有り得るが、本件行政文書の内容からは、そのような場面は想定できず、また、具体的なおそれの説明もないことから、この主張は当たらない。
      したがって、本件行政文書を公開することにより自律的な争訟方針の決定及び争訟活動の遂行が妨げられるとの知事の意見には理由がないものと認められる。
      以上のことから、本件行政文書は、条例第7条第4号に該当しないものと判断される。
  • (3)条例第7条第1号の該当性について
    実施機関は、本件行政文書が条例第28条第2項及び第7条第4号に該当するとして非公開としたが、上記(1)及び(2)のとおり本件行政文書は条例第28条第2項及び第7条第4号に該当しないものと判断される。しかしながら、審査会で見分したところ、本件行政文書には個人に関する情報が記載されており、当該情報についての非公開の適否の判断が必要なものと認められることから、条例第7条第1号の該当性について検討する。
    上記(2)で述べたとおり、本件行政文書と同一内容の文書である本件訴訟記録は、裁判所で何人にも閲覧可能なものとして公開されているものと認められる。
    しかしながら、訴訟記録の閲覧制度や裁判の公開は、そもそも、裁判の公正と司法権に対する信頼を確保することなどの基本的な理念に基づき、特定の受訴裁判所の具体的判断の下に実施されているもので、その手続及び目的の限度において訴訟関係者のプライバシーが開披されるものであり、法第91条第1項で何人も訴訟記録の閲覧を請求できるからといって、そのことから直ちに、あらゆる場合に、条例に基づく訴訟記録の公開が個人のプライバシーを侵害しないとはいえないことは明らかであり、また、条例では、第3条第2項で実施機関の責務として、「この条例の解釈及び運用に当たっては、個人に関する情報が保護されるように最大限の配慮をしなければならない。」と定めており、個人に関する情報については特別な配慮を行うことが求められていることを勘案すると、実施機関が保有する訴訟記録に記載された個人に関する情報が、条例に基づく情報公開手続において、直ちに一般的に公表することが許されているものと解することはできない。判例(平成18年4月24日高松高等裁判所判決:平成17年(行コ)第17号)においても、この考え方は支持されている。
    したがって、訴訟記録が法第91条第1項により、何人も閲覧を請求することができるとしても、実施機関が保有する訴訟記録に記載された個人に関する情報のうち、少なくとも特に保護の必要性が高いと認められる情報である個人識別情報(法以外の方法により公にされているものを除く。)については、条例第7条第1号ただし書きアに該当せず、本文に該当するものと認められる。また、法以外の方法により個人識別情報が公にされている場合にあっては、当該個人識別情報により識別される個人の情報であって、特にプライバシーの保護の必要性の高い情報(病名、犯歴、生活保護歴等)については、同条同号ただし書きアに該当せず、本文に該当するものと認められる。
    これらの考え方に基づき、本件行政文書に記載された個人識別情報について、別表のとおり判断する。
    なお、本件行政文書には、法以外の方法により公にされている個人識別情報に係る個人について、特にプライバシーの保護の必要性の高い情報の記載は認められなかった。
  • (4)条例第7条第2号の該当性について
    上記(3)と同様に、本件行政文書には法人及び事業を営む個人に関する情報が記載されており、当該情報についての非公開の適否の判断が必要なものと認められることから、条例第7条第2号の該当性について検討する。
    上記(2)で述べたとおり、本件行政文書と同一内容の文書である本件訴訟記録は、裁判所で何人にも閲覧可能なものとして公開されているものと認められる。
    したがって、本件行政文書と同一内容の文書である本件訴訟記録が法により既に公開されていることから、公開しても法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められないので、条例第7条第2号に該当しないものと判断される。
    よって、当審査会は、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。

第6 審査会の審査経過

当審査会は、本件諮問事件について、次のとおり審査を行った。
(省略)

別表1

本件行政文書(a)(甲A第1号証を除く。)、本件行政文書(b)、本件行政文書(c)及び本件行政文書(d)
個人識別情報 審査会の判断 公開又は公開しない理由
  • 原告の住所及び氏名
  • 「【別紙】原告らと本件土地収用との関係」のうち土地所有権者、立木所有権者及び土地所有権者の被相続人の氏名並びに収用対象となった所有権を有する土地の所在地
  • 審査請求人の住所、氏名及び年齢
非公開 特定の個人が識別される情報であり、条例第7条第1号ただし書きアに該当せず、同条同項本文に該当するため。
  • 原告法人の代表の氏名
非公開 法人の代表者等の氏名については、特定の個人が識別される情報であり、任意団体である当該特定法人の活動内容等については定かでなく、その代表者等について公にされているものと認められないことから、条例第7条第1号ただし書きアに該当せず、同条同項本文に該当するため。
  • 香川大学教授、香川県知事、国土交通大臣、香川県収用委員会会長及び高松地方裁判所書記官の氏名
公開 特定の個人が識別される情報であるが、公務員等の職務の遂行に係る情報に含まれる情報であり、条例第7条第1号ただし書きウに該当するため。
2 本件行政文書(a)のうち甲A第1号証
個人識別情報 審査会の判断 公開又は公開しない理由
  • 土地所有者兼関係人及び関係人の住所及び氏名〔土地収用法(昭和26年法律第219号)第45条の2の規定により公告されているものを除く。〕
非公開 特定の個人が識別される情報であり、条例第7条第1号ただし書きアに該当せず、同条同項本文に該当するため。
  • 関係人法人の代表者の氏名
非公開 法人の代表者等の氏名については、特定の個人が識別される情報であり、任意団体である当該特定法人の活動内容等については定かでなく、その代表者等について公にされているものと認められないことから、条例第7条第1号ただし書きアに該当せず、同条同項本文に該当するため。
〔土地収用法第45条の2の規定により公告されているもの〕
  • 土地所有者兼関係人及び関係人の被法定相続人の氏名
  • 土地所有者兼関係人及び関係人の住所及び氏名
  • 土地所有者兼関係人の被受遺者の氏名
公開 特定の個人が識別される情報であるが、土地収用法の規定により公告されており、公にされている情報と認められることから、条例第7条第1号ただし書きアに該当するため。
  • 香川県知事、小豆島町長及び香川県収用委員会委員の氏名
公開 特定の個人が識別される情報であるが、公務員等の職務の遂行に係る情報に含まれる情報であり、条例第7条第1号ただし書きウに該当するため。

401号~450号 451号~500号 501号~

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