結核について、保健所との関わりの視点から
(4) 結核発生後の保健所との連携について
この記事は、2025年3月10日に更新されました。
結核患者が発生した場合、診断した医療機関からの届出を受けて、管轄の保健所が「疫学調査」と「接触者健診」を実施します。これらは感染症法に基づく、二類感染症である結核の予防とまん延の防止を目的とするものです。
患者さんと関係する施設・事業所等の皆様には様々なご対応をお願いする場合がありますが、こちらではその一部を説明し、よくお寄せいただく質問にも回答していますので、ご理解とご協力をよろしくお願いします。
疫学調査について
疫学調査とは、感染の原因や経路を調べ、新しい患者さんの発生を防ぐことを目的として実施する調査です。保健所の職員が、患者さんの自宅や入院先へ伺い、結核と診断されるまでの経緯や、一緒に過ごしていた方の状況などを聞き取ります。また、患者さんの勤め先、利用施設などにも必要に応じて伺います。
Q)職場や施設に対しては、どのような内容を調査するのですか。
A)
- 患者さんと接触(同じ空間で過ごしたこと)があり、結核に感染した可能性がある入所者や職員さんがいる場合に、接触した期間や頻度、接触の状況を調べます。関係者の勤務時間・場所などの情報を提供いただく必要がありますので、ご協力をお願いします
- 事前にお伝えいただいた情報に加えて、保健所職員が実際に訪問し、部屋の広さや換気の状況なども確認します。調査の結果、必要と考えられた対象者には、検査(接触者健診)を実施します。
Q)患者さんとの接触状況の調査は、どこまでさかのぼる必要があるのですか。
A)
- 最初に見つかった患者さんが、周りの人に結核をうつす可能性がある期間を、感染性期間と呼びます。原則、結核と診断された日から、3ヵ月前までを感染性期間とし、調査の対象としますが、患者さんの検査結果など、個々の状況を踏まえ決定しています。
- たとえば、患者さんの症状がいつからあったのか、過去の健康診断ではどのような結果だったのか、は感染性期間の参考となる大切な情報です。また、調査や健診を進めていく中で新しい患者さんが見つかった場合は、さらにさかのぼって調査する場合もあります。
接触者健診について:検査を受けるまで
疫学調査で得られた情報に基づき、管轄の保健所は、患者さんと一定以上の接触があり、感染のリスクがあると考えられる方を対象に、検査を実施します。この検査を、接触者健診と呼びます。接触者健診は、新しい結核患者さんや、感染しているが、まだ発病していない人(潜在性結核感染症)を早期に見つけることができ、感染の拡がりを断つために重要な検査です。
Q)接触者健診では、具体的に何を行うのですか。どのような準備が必要でしょうか。
A)
- 健診では、問診と血液検査を実施します。
- 特に準備物はありませんが、問診では「これまで結核にかかったことや、結核の検査を受けたことがあるか」「最近の健康診断(胸のレントゲン)の結果」「結核のBCGワクチンを接種しているか」などについて伺います。可能な範囲で事前に把握をお願いします。
- 血液検査(採血)は、結核菌の感染を調べるために実施します。T-SPOT検査の詳細は、「T-SPOT検査を受けられる/受けられた方へ(PDF:280KB)」をご確認ください。
- 対象者や時期は、保健所からお伝えします。具体的な場所・日時については、対象者の人数や状況により調整します。
Q)接触者健診の対象者は、どのように決まるのですか。なぜ、すべての人をいっせいに検査しないのですか。
A)
- 検査に伴う負担を最小限にしつつ、結果の信頼性を高めるために、検査の対象となる方は保健所が個々の状況を総合的に判断し、ご案内します。判断には、患者さんの検査結果(どれくらい周囲に感染させやすいと考えられるか)、患者さんとの接触状況、などを考慮し、一定の基準に基づき評価・決定しています。
- 初回の健診対象者に含まれなくても、後日、検査をご案内することがあります。健診を進めながら、対象となる方を段階的に広げることがあるためです。感染のリスクが高いと考えられる方を優先して検査し、その結果もふまえて、次の対象者を決めます。検査を適切に実施するための一般的な方法ですので、ご理解をお願いします。
Q)接触者健診の実施時期は、どのように決まるのですか。すぐに検査を実施しない場合があるのは、なぜですか。
A)
- 結核菌は、身体の中で、ゆっくりと増えるので、感染しても、すぐには検査で検出できません。そのため、最後に感染の可能性があったと考えられる日を確認し、すぐに検査をする場合もありますし、2~3ヵ月後に検査を予定することもあります。
- 結核の検査は、適切な時期に受けなければ、結果がはっきりと得られない場合があります。必要な検査については保健所から案内し、無料で実施されますので、医療機関で検査を受けることはご遠慮ください。結核患者さんと接触があったことや、接触者健診を受けることについて、かかりつけ医などへ伝えることは差し支えありませんが、患者さんの個人情報にはご配慮ください。
接触者健診について:検査が終わったら
接触者健診の結果は、各個人へ通知します。陽性の場合は、医療機関で精密検査を受けていただき、治療の必要性について医師が判断します。陰性の場合は、経過観察となります。検査実施後の流れは、「T-SPOT検査を受けられる/受けられた方へ(PDF:280KB)」をご確認ください。
Q)接触者健診が陽性であった場合が心配です。結果を待つまでの間、私から他の人へうつす心配はありませんか? 普段からできることはありませんか?
A)
- 接触者健診における「陽性」とは、「身体の中に結核菌がいる(感染している)」ことを示すもので、「他の人にうつす可能性がある(発病している)」という意味ではありません。
- 症状が出て他の人にうつすようになる(発病する)人は感染した人の1割程度であり、発病までの期間は個人差が大きく、感染から数ヵ月から2年以内であることが多いとされています。
- 咳や発熱などの疑わしい症状がなければ、他の人へうつす可能性や、短時間の接触で感染させる可能性は低いため、健診結果を待つまでの間、生活や出勤に制限はありません。
- 他の方と接する際に心配な場合は、インフルエンザなどと同様、個人の判断で咳エチケットやマスクの着用を行ってください。接触者健診の結果が出るまでに、咳や発熱があった場合は、保健所へご相談ください。
- 結核の発病リスクを下げるためにできることとして、規則正しい生活で、体力・免疫力を高めることは重要です。喫煙を控え、栄養バランスの取れた食事、運動と十分な睡眠を心がけましょう。糖尿病等、慢性腎不全など、免疫が弱まる病気がある方は、主治医の指示に基づいて、コントロールを良好に保つことが大切です。
Q)血液検査だけで大丈夫ですか。なぜ、初めから全員に精密な検査をしないのですか。
A)
- 結核の検査には、血液検査、喀痰検査、画像検査(胸部レントゲン、胸部CT)など、多くの種類がありますが、一度にすべての検査を受ける必要はありません。
- 病院で行う精密検査は、感染している可能性が高いことを前提に実施されるものです。可能性が低い人に精密な検査をすることは、検査を受ける人の負担になるだけでなく、はっきりしない結果しか得られません。感染の可能性があっても、結核を発病する人はごく一部なので、はじめから全員に精密検査を受けてもらうことは現実的ではなく、科学的にも推奨されません。
- まずは「感染の可能性があるかどうか」を血液検査で確認し、必要な方(感染の疑いが高い方)に、精密検査をご案内します。1回の検査で結果がはっきりしない場合、再検査や別の方法(胸部レントゲンなど)による検査をご案内することがあります。
- 各検査の必要性は、保健所で十分に検討していますので、ご理解をお願いします。
おわりに:あなたと一緒に、感染症につよい地域へ。
- いかがでしたか。結核に対する向き合い方、対策の考え方について、ご理解を深めていただけましたら幸いです。結核は、国籍・年齢を問わず、日常の社会生活で、誰でも感染する可能性がある病気です。
- かかった人が悪い、という考え方ではなく、誰がかかっても、安心して治療を受けられる地域を目指すために、保健所の取組・関わりについてご協力をお願いします。
- 結核への対応について、判断に迷うこと、心配なことなどがございましたら、保健所へご相談ください。