結核について、保健所との関わりの視点から
(1) 誤解していませんか、結核のこと
この記事は、2025年3月10日に更新されました。
結核とはどのような病気で、なぜ保健所が関わるのでしょうか。初めて保健所で結核を担当することになった保健師のYさんと、保健所で勤務する医師、Sさんの会話から見てみましょう。
Part 1:結核は昔の病気?
- Y保健師 結核のことは、教科書でひととおり勉強したのですが、あらためてしっかりと理解したいと思います。よろしくお願いします。
- S医師 よろしくお願いします。結核は、結核菌というバイ菌が引き起こす感染症ですね。まずは、結核が現代の日本でどのような状況にあるのか、確認しておきましょう。
- Y保健師 結核は、昔の病気、というイメージがあります。映画や時代劇で、喀血(かっけつ:肺から出血し、血を吐くこと)しているシーンが思い浮かびますね。
- S医師 なるほど。確かに、結核はかつて日本で大勢の人がかかり、命を落とした感染症でしたが、結核にかかる人は、年々減っていますからね。
- Y保健師 現代の日本では、どれくらいの人が結核にかかっているのでしょうか。
- S医師 毎年、日本で約1万人が結核と診断されています。なお、世界全体では、約1,000万人が新しく感染しています。
- Y保健師 えっ、そんなに患者さんがいるんですね! 現代でも、めずらしい病気ではないということですね。
- S医師 その通りです。日本では、新しく結核にかかる人の数は減ってきています。内訳を見ていくと、高齢の方、若い外国人の患者さんが増えています。でも、国籍や年齢に関わらず、誰でも感染する可能性があることを、知っておきたいですね。
- Y保健師 結核かもしれない、と疑うきっかけはありますか?
- S医師 結核は肺に悪さをすることが多いです。微熱や咳、だるさなど、風邪と似た症状から始まりやすいので、特に長引く時は、疑いたいですね。2週間くらい、症状がダラダラと続くときは、医療機関を受診しましょう。
- Y保健師 どのような検査や治療を受けることになりますか?
- S医師 咳や熱が続く病気は、結核以外にも色々ありますから、他の病気と同じように医師に相談し、指示を受けてください。結核かどうかは、血液検査、痰の検査、肺の画像検査(レントゲン、CT)を組み合わせて判断します。治療は6ヵ月間の飲み薬が基本です。治る病気ですが、放置すると他の人にうつしてしまうので、早めに見つけることが大事ですね。
結核は現代の日本でも、誰でもかかる可能性がある。
結核にかかる人が減っているからこそ、正しい知識と理解を持ち続けることが大切。
Part 2:結核はどうやってうつる?
- S医師 Yさんは、結核がどのように感染するか、勉強しましたか?
- Y保健師 もちろんです! 結核は「空気感染(空気中を漂う結核菌を吸い込むことによる感染)」します。感染対策が難しそうなイメージがあります。
- S医師 なるほど。ちなみに、結核患者さんと握手をすると、結核はうつるでしょうか?
- Y保健師 うつりません! 結核は接触感染しない(手や物を介してうつることはない)からです。
- S医師 そのとおりですね。肺の奥まで結核菌を吸い込まない限り、結核はうつりません。だから、患者さんと握手をすることや、身の回りの物(ベッドや便座など)の共有でうつる心配はありません。
- Y保健師 そう考えると、対応がすっきりしますね。では、空気感染はどのように起こるのですか。
- S医師 結核患者さんが咳やくしゃみをすると、大きなしぶきは床に落ちますが、小さなしぶきは水分が乾燥して、含まれる結核菌が空中に漂うようになります。この結核菌を吸い込むことが、空気感染の原因ですね。
- Y保健師 一緒に過ごしていたら、必ず感染するのでしょうか。
- S医師 いいえ。感染するかどうかは、患者さんがどれくらい人にうつしやすい状態であったか、で異なります。また、部屋の広さや換気の程度、患者さんがマスクを着けていたかどうかなど、様々なことが影響します。
- Y保健師 一概には言えないのですね。
- S医師 そうですね。一緒に過ごした時間がどれくらい長いか、も重要ですね。たとえば、患者さんと同じ飛行機に乗っても感染する可能性は非常に低いとされています。一方、一緒に過ごす時間が長い職場では一定のリスクがありますが、同居している家族と比べると、低くなります。
- Y保健師 だから、患者さんと一緒に過ごした人について、感染した可能性があるかどうかは、保健所がくわしい調査の上で、総合的に判断するのですね。感染した人は、どれくらいで症状が出るのですか。
- S医師 結核菌はゆっくり増える菌です。症状が出る(=発病する)までには、感染から半年~2年くらいかかります。感染した人で、実際に症状が出て、他の人にうつす状態まで進んでしまう人は、約1割です【下図】。

- Y保健師 どんどん感染が広がるのかと思っていましたが、風邪やインフルエンザとは、うつり方や症状が出る速さが全然違うんですね! 患者さんが見つかったら、あわてずに、まだ症状が出ていない人を見つけることで、感染の拡がりを防ぐことができるのですね。
- S医師 その通りです。そのために、保健所が関わらせていただきます。
Point 2
|
結核は、みんなが同じようにうつるわけではない!
|
結核の感染リスクは、患者さんと接していた状況などで異なる。
感染しても、すぐに症状が出るわけではない。
Part 3:結核患者さんが見つかった場合の、保健所の役割は?
- S医師 さて、Yさんは、先日地域で見つかった結核患者さんについて、患者さんや、患者さんの職場を訪問されていましたね。保健所には、どのような役割がありますか。
- Y保健師 はい。感染症法に基づいて、結核に感染した可能性がある人について、調査や検査をします。これにより、感染の広がりを防ぐことができます。また、患者さんの治療が終わるまで、薬を飲み続けるサポートをします。診断から治療の終了までは半年程度かかるので、長い関わりですね。
- S医師 Yさんが、大切だなあ、と感じるポイントはありますか?
- Y保健師 患者さんが安心して治療を続けられるよう、十分なサポートが大切なのですが、そのためには患者さんと一緒に生活したり働いたりする方に、結核を正しく理解していただくことが大切であると思っています。
- S医師 なるほど。突然「結核です」と言われても、よくわからない、という方も多いと思われます。「どのような状況で感染するのか」や「患者さんにどのように対応したらよいのか」など、考えることがたくさんありますよね。
- Y保健師 わからないことで、不安を感じることもあると思います。不安の中で対応することは、患者さんにとっても、ケアをする人にとっても、負担が大きいですね。
- S医師 調査や検査のご協力をお願いする際や、患者さんの状況について情報共有を行う場面で、保健所側からの説明・コミュニケーションが重要です。
- Y保健師 関係者の皆さんが安心して対応し、患者さんが治療に取り組めるように、保健所で連携とサポートができるようにがんばります。ご不明な点があれば、ぜひ保健所へご相談いただきたいです。
Point 3
|
結核の対策では、保健所が関わります!
|
結核の対応では、保健所から関係者へ協力をお願いすることがあります。
患者さんの安心・支援にもつながりますので、ご理解をお願いします。